「国民のための働く内閣」をアピールしていたのだが…

「新型コロナウイルスが経済に与える影響や内外の経済動向を注視しながら、躊躇ちゅうちょなく必要な対策を講じる」

新型コロナウイルス感染拡大を受け、記者団の質問に答える菅義偉首相(左)=2021年8月13日午後、首相官邸
写真=時事通信フォト
新型コロナウイルス感染拡大を受け、記者団の質問に答える菅義偉首相(左)=2021年8月13日午後、首相官邸

これは昨年10月26日の菅義偉首相の所信表明にある言葉だ。菅首相はデジタル庁の創設や温室効果ガスの大幅削減、安心安全な東京オリンピック・パラリンピックの開催など具体的な政策を並べ、国民に対して「仕事師」としての自分を強くアピールした。

閣僚に対しても「国民のための働く内閣」をスローガンに据え、「一つひとつの仕事に真面目にこつこつ取り組む姿勢を示すことが重要だ」と訓示した。

菅首相には二世政治家や官僚出身議員によくある門閥、学閥、財力のいわゆる地盤・看板・カバンの支えがなく、「たたき上げの苦労人」「庶民派」のイメージが強かった。周りの意見や考え方をよく聞いて判断し、人心を掌握できる人物だと思われていた。

しかし、最近の菅首相の言動を見ていると、それとは真逆のように思えてならない。果たして国の舵取りという重い責任を担うことができる政治家なのだろうか。

尾身茂会長は「救える命が救えなくなる」と警告

ところで、政府の新型コロナ対策分科会が8月12日、東京など緊急事態宣言の発令されている6都府県について2週間限定で感染抑制策の強化を求めるよう提言した。

分科会の尾身茂会長は「救える命が救えなくなる」と警告し、東京での人出を緊急事態宣言発令前の5割まで減らすなど市民に外出の自粛を求めるとともに、政府と自治体には総力を挙げた医療提供体制の強化を訴えた。医療現場が逼迫ひっぱくし、新型コロナ治療以外の診療までできなくなる医療崩壊を防ぐための要請である。

この日、爆発的な感染拡大によって全国の1日当たりの新規感染者数は、過去最多の1万8888人を更新した。ワクチン未接種の若い人や中年の感染が多い。重症患者も増えている。とくに都内では病院のベッドが埋まり、入院できない自宅療養者が急増中だ。爆発的感染拡大の原因は感染力の強いデルタ株の流行にある。感染の急拡大が起きることは、欧米の感染拡大の状況から判断してかなり前から分かっていた。