プーチン大統領は毎回、メダリストをクレムリンに招いて盛大に顕彰する。2018年の平昌冬季五輪の金メダリストには、トヨタのランドクルーザーなどが贈られており、報奨金は米国の3倍に上るといわれる。

「レースはおそらくクリーンではなかった」

とはいえ、「史上最悪の国家ぐるみのドーピング・スキャンダル」(英紙フィナンシャル・タイムズ)にもかかわらず、ロシア選手団がメダルを次々獲得したことには反発もあった。

米国の女子ボート選手、メーガン・カルモイはロシア・チームが2位に入った後、「ここにいるべきでないクルーが銀メダルを獲得するのは嫌な気分だ」とツイッターでつぶやいた。競泳男子200m背泳ぎ決勝でロシア選手に敗れた米国のライアン・マーフィーは「レースはおそらくクリーンでなかった」と書き込んだ。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(8月4日付)は、「各国選手の多くは、ロシア人選手が国旗とともに東京五輪から追放されるべきだと思っている」と書いた。

これに対し、ロシアの国営メディアはマーフィーのつぶやきを「負け惜しみだ」と非難。ペスコフ大統領報道官も、ロシアへのドーピング批判は一切無視し、競技に集中するよう選手団に求めた。

政府系メディアは連日、逆境の中で健闘するロシア選手団の活躍を英雄のように報道。返す刀で、「米男子バスケットボール・チームの1992年以来の敗北」「100年ぶりのテニスでのメダル獲得ゼロ」などと米国の不振を面白おかしく伝えていた。

国営テレビがLGBTQを「倒錯者」と中傷する異様さ

競技場外でも、ロシアの愛国主義的突出が目立った。

食事など選手村の快適さは各国の選手も高く評価していたが、ロシア・フェンシング・チームの監督だけが部屋が狭すぎるとして「中世のようだ」と噛みついた。

ペスコフ大統領報道官は、東京五輪公式サイトに掲載されている地図でクリミア半島がウクライナ領になっていることを問題視し、適切な措置をとるようロシア大使館に命じた。

ロシア国営テレビは、五輪に出場したLGBTQ(性的少数者)の選手を「性的倒錯者」と中傷するなど差別発言を繰り返し、欧米諸国から批判された。ロシアでは昨年、同性婚を事実上禁じる改正憲法が成立し、性的少数者への逆風が強まっている。

前述のベラルーシの女子陸上選手亡命事件をめぐっても、政府系メディアは「欧米の陰謀」説に言及していた。