暫定政府を樹立した国軍は市民940人を虐殺

8月1日、ミャンマー(旧ビルマ)の国家統治評議会(SAC)は暫定政府を発足させ、SAC議長で国軍最高司令官のミン・アウン・フライン氏(65)が暫定政府の首相に就任する、と発表した。SACは今年2月1日に軍事クーデターを起こしたミャンマー国軍が設置した意思決定機関だ。クーデターからちょうど半年のこの節目に国軍トップを首相の地位に据え、独裁体制を強化する狙いがある。

ミャンマー・ヤンゴンで軍のクーデターに抗議する人々=2021年2月9日
写真=AFP/時事通信フォト
ミャンマー・ヤンゴンで軍のクーデターに抗議する人々=2021年2月9日

SACは「掲げてきた『憲法に基づく自由で公正な選挙の実施』の目標を速やかに達成するため暫定政府を樹立する」と強調したが、ミャンマー国軍はクーデター以降、抗議デモを繰り返して反発する市民に対し、武力による弾圧を続けている。

ミャンマー国内の人権団体「政治犯支援協会」の調査によれば、これまでに計940人もの市民が虐殺され、いまも5500人近くが身柄を拘束されている。国軍による恐怖政治はとどまるところを知らない。今後も国軍は民主化を進めてきたアウン・サン・スー・チー氏(76)ら民主派を徹底して排除し、このまま行くと、形だけの選挙によって国軍寄りの新政権が誕生する。すでに国軍の支配下にある選挙管理員会は、アウン・サン・スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の昨年11月の総選挙での大勝を「無効」と宣言している。

国連は中露の反対で強い対応が取れない

いまこそ、国際社会が強硬な手段に出るべきである。しかし、国連の安全保障理事会は、ミャンマーと関係の深いロシアと中国の反対によって武器禁輸や経済制裁などの強い対応が取れないでいる。

とくに中国の習近平(シー・チンピン)政権は、国軍の今回のクーデターを契機にミャンマーを自国の支配下に組み入れようと動いている。ミャンマーは武器の輸出相手国としてだけでなく、国防上かつエネルギー上の“かなめ”に相当し、習近平政権が掲げる「一帯一路」構想の上部に置かれるからだ。

地理的にミャンマーは中国の雲南省などに接し、インドシナ半島を経由してインド洋に出るルート上に位置する。

有事の際、マレー半島とスマトラ島の間の太平洋とインド洋を結ぶマラッカ海峡をアメリカに封鎖される危険性があり、このミャンマールートは中国にとって国防上、欠かせない。ミャンマールートを使えば、マラッカ海峡を通らずに中東から原油や天然ガスをタンカーで運ぶことができ、エネルギーの供給に役立つ。習近平政権がミャンマーに固執するのは当然だ。実際、中国は軍事政権時代の1980年代から原油・天然ガスのパイプラインの建設を押し進め、数年前から本格的な輸送を開始している。