アーリー・リタイアは「ズレた老人」を生む
なぜ、私が死ぬ寸前まで働くということを推奨するかというと、答えは簡単です。アーリー・リタイアした人、あるいは年金生活に入った人などと交流したり関わったりする機会がしばしばあります。
そこで会った人たちの印象から、私は、自分でお金を稼いでいる人と、これまで貯めた資金と年金のみで暮らしている人では、まったく違う「人種」になってしまう、ということを嫌というほど体感したからです。
やはり、人からお金をもらうというのは、大変なことなのです。そのためには、自分の生まれ持った才能を生かして、日々研鑽を積み、市場のニーズを満たしていかなければいけません。
そして、いったん労働市場から身を引いてしまえば、厳しい競争の世界から離れてしまうわけですから、どんどんと世間からズレていきます。
また、蓄えた資金は増えることはなく、使えば減る一方ですから、どうしてもケチくさくなります。新しいものに投資をしたり、新しいことにお金を使ったりすることに、どうしても躊躇するようになるのです。
年金生活の最大のリスクを一言で言うと、
アップサイド・ポテンシャル(上昇余地)がいっさいないこと。
これに尽きると思います。どんなに策を講じたとしても、そもそもの年金支給額が上がることは、基本的にはありません。しかも、先ほども述べた通り、65歳以上になったときに中途半端に稼いでしまうと、かえって年金支給額が目減りしてしまうこともあります。そうなってくると、人は変化を嫌い、満足な努力もせずに、守りに入ってしまいます。
新入社員の頃は、たとえ給料が少なくたって、未来がありました。今後、どんなふうに給料を上げるようにしていけばいいか、考えて努力するための時間もありました。ところが、老後に支給される年金額というのは、物価スライドはするものの、全体のお金自体は増えもしなければ、減りもしないのです。
「そんなことはない。自分は年金生活になっても、世間とはズレずに、幸せのまま生きていく自信がある」とおっしゃる人もきっといるでしょう。けれども、私たちは、無意識な領域に支配されている生き物です。意識的に行動していたとしても、常に無意識の領域が与える影響というものはとてつもなく大きいのです。
自分にアップサイド・ポテンシャルがない、そんな収入状況になったときには、意識的に自信があると言っていたとしても、残念ながら、無意識下の影響は強く、明るく生きる自信はなくなってしまうのです。
だからこそ、歳を取ってからも社会との関わりを持ち続け、自分自身でさまざまな工夫を凝らし、才能を生かすことができれば、収入が上がる可能性を確保し続けることができます。そんな老後を迎えるのが理想なのです。