経済指標「全国ワースト」の沖縄は変われるか
この示唆は、高校野球だけにとどまらない。沖縄の経済に目を向けると、課題解決の着手すらままならない現実がある。産業、経済、労働など多くの指標で沖縄は「全国ワースト」の常連だ。経済の課題はつまり、「経営感覚」「マネジメント」の問題。プロセスや環境の改善に対応できる「経営者」や「指導者」の不足を意味している。
栽監督は、「沖縄の子で日本一をつかむんだ」という大きな目標を掲げて素材を発掘し、その選手たちを生かす環境づくりと原資の確保に奔走した。いわば、沖縄球界を代表するGM(ジェネラルマネージャー)さながらの立ち回りで、一つずつ課題を潰していった。「並み」や「平均」を越えたところに大きな目標を持つことが、課題を克服する一番の近道であることを、監督が自ら強く意識していたからではないだろうか。
チームとして地域を代表する意識は薄れつつある
悲願の日本一という峠を越え、人材流出という新たな下り坂が見えてきた沖縄の高校野球。さらに、球界全体では野球人口の減少から、球数制限や練習時間の徹底管理といった制約も加わる。マネジメントを担うリーダーの経営手腕が、いっそう試される段階に入った。
チームとして地域を代表する意識は薄れ、選手の「個」が主役になる時代にあって、指導者には評価の数値化による“見える化”が求められるようになってきた。今や野球指導の王道だった鉄拳制裁や連帯責任といった“根性論”は通用しない。テクノロジーの活用に関心を持ちながら、選手や家族の納得感とやる気を同時に引き出す指導者が、新しい「1番」の価値を創っていくのかもしれない。
栽監督は常に「子どもたちの素質を生かすこと」を目指していた
地域経済を担う企業や行政の組織においても構造は同じだ。誰かとの横の比較の中でわずかな差を競い合う現状では、目の前の課題や生活環境に対する不満が一向に解消しないことに、多くの人が気づき始めている。
栽監督が実践したように、比較の及ばないところで突出、突破する、圧倒的な高い目標設定とそれに至るプロセスを示せるかが、沖縄のリーダー、経済界トップ、企業経営者にとっての重要なテーマとなる。
その前提には、特定業種の税減免措置や、予算消化の延長を求めるような前例踏襲から抜け出すこと。物事を興し、社会変化に対応できる人づくりと、そこに直結する育成環境の整備に限られた原資を投じていくことが必要ではないか。
勝利という目標に突き進むため「子どもたちの素質を生かす」ことを目的の中心に据え、その為に「場をつくる」信念を徹底した“栽野球”に、改めて学ぶことは多い。