これから日本は、人口減少と労働力不足の問題がさらに深刻化する。コロナ禍で2020年は新生児の数が急激に減り、21年は80万人割れと10年以上前倒しの低水準まで落ち込むと予測されている。今後の労働力人口の減少を、技能実習制度で外国人に働いてもらってまかなうのにも限界がある。移民の受け入れを本格的に議論する時期を迎えたということだ。

移民たちがワクチン開発で大活躍

参考にすべきは、ドイツの系統的な受け入れだろう。現在ドイツの移民はトルコ系が最も多く、人口約8300万のうちトルコ人は300万人ほどいて、およそ半分がドイツ国籍を持っている。これは60年かけて受け入れてきた結果だ。

きっかけは1950年代に西ドイツが高度経済成長を迎えたことだ。労働力不足に陥り、対策として近隣国から移民を受け入れはじめる。トルコとは61年に協定を結び、大量の移民が入ってきた。

移民は当時「ガストアルバイター」(お客さんの労働者)と呼ばれた。しかし、その丁重な呼び名とは裏腹にひどい差別があった。彼らはドイツ人が嫌がるきつい仕事や汚い仕事を押しつけられる。トルコ系が多く住む地域は犯罪が増え、ドイツ女性が暴行されたと大騒ぎになることもあった。移民の第1世代は、偏見や差別から辛酸をめる。受け入れる側のストレスも大きい。

だが、30年ほど経つと第2世代、第3世代が社会で活躍しはじめる。ドイツで生まれ育ち、ドイツの大学を卒業した世代だ。企業でホワイトカラーの仕事に就き、医者、弁護士、大学教授が現れ、州議会や連邦議会の議員に選出された。ドイツでそのような職業を経験し、トルコに戻って活躍する人たちも出てくる。

このことによって、両国の関係は強固になった。例えばドイツのアパレルメーカーのヒューゴ・ボスは、人件費が安い国でも中国ではなくトルコに工場があり、競争力が抜群に高い。ドイツ企業にとって、トルコの工場は秘密兵器だ。私はトルコ西部の都市イズミールで同社の巨大な工場を視察した。ドイツ人はたった2人で、それ以外はトルコ人だった。現場リーダーは主にドイツから戻った人たちが務め、TQC(品質管理活動)みたいなこともやっていた。驚いたのは、トルコ人同士でもドイツ語で会話していたことだ。トルコのケーブルテレビは、ドイツ語放送のチャンネルがいくつもあって、ドイツ語に接する機会は多い。それだけ人的交流がしやすい。

この強固な関係が生んだ最近の大きな成果は、新型コロナワクチンだ。