非対称的な関係から、対称的な関係に変化した日韓関係

従来、日韓間に歴史問題や領土問題は厳然として存在した。にもかかわらず、関係が必然的に悪化したわけではなかった。それではなぜ、近年、日韓関係が急激に悪化することになってしまったのか。

7月に岩波書店から上梓した『日韓関係史』では、その原因として日韓関係が「非対称で相互補完的な関係」から「対称で相互競争的な関係」に変容したにもかかわらず、日韓双方の政府、さらに社会が、そうした構造変容に適切に対応できていないという点に注目している。

1980年代の冷戦期、下記の点において日韓は“非対称な関係”にあった。

①日本の力の優位
②日本の市場民主主義と韓国の開発独裁という体制の違い
③政府・財界関係のみの関係
④関心・情報・価値の日本から韓国への一方的流通

こうした非対称な関係の下で、日韓の経済協力によって韓国の経済発展と政治的安定を達成し、それによって北朝鮮に対する韓国の体制優位を確保することで日本の安全保障を確実なものにするという相互補完的な関係が形成されていた。そして、その共通目標は見事に達成された。

しかし、1990年代以降、冷戦の終焉と韓国の先進国化・民主化によって、日韓の関係性は、

①日韓の力の対等化
②市場民主主義という価値観の共有
③地方政府間関係、社会文化関係を含む多層で多様な関係
④関心・情報・価値の流通における日韓の双方向化

などによって対称的に変化した。

そして、それに伴って、日韓間には競争関係が強く刻印されることで、相互に自分のほうが進んで譲歩し難いという関係になってきたのである。

互いに協力する目的を失ってしまった

このように、冷戦体制下において、日韓協力を通して韓国の経済発展と政治的安定を確保し、北朝鮮に対する韓国の体制優位を確実なものにすることで、日韓の安全保障に資するという共通目標自体が達成されてしまったが故に、一体何のために、どのように協力するのかが不透明になったのである。

日本と韓国
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さらに、不透明になるだけでなく、場合によっては、外交目標に関する日韓の乖離が目立つようになった。そのような状況のなかで、日韓の間に存在する歴史問題や領土問題に起因した対立関係がエスカレートしないように管理するという課題を、日韓双方とも共有しなくなった可能性が高い。

そうした対立争点を妥協に導くためには、日韓双方の相対的な強硬世論に対して、そうした対立争点があるにもかかわらず、より一層重要な分野、具体的には経済や安全保障に関して協力する必要があるので、そうしなければならないと説得する必要がある。

しかし、そうした協力の必要性が低下すると、強硬な国内世論を説得してまで、対立を妥協に導く必要がないということになってしまうからである。

しかも、日韓が対称で相互競争的な関係になることで、「相手には絶対負けられない、譲歩できない」と双方の国内世論、特に、従来はそれほどでもなかった日本の国内世論がより一層強硬になることで、政府としてはあえて強硬な国内世論の支持を相当程度失うかもしれないというリスクを負ってしまう。

そのようなリスクを取ってまで、相手国との妥協を試みるという選択をするだろうか。