デルタ株の感染力の高さで「局面が変わった」

五輪会場に足を運ばなくとも、自宅のテレビ観戦で日本の選手やチームが金メダルを獲得するシーンを目にすると、晴れ晴れしくなるし、彼らが「支えてくれたみんなのおかげです」と涙声で語ると、テレビを見ているこちらも思わず涙がこみ上げてくる。

新国立競技場
写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
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その意味でオリンピックは新型コロナ禍で落ち込んだ私たちの心に潤いを与え、癒やしてくれる。いい気分転換になる。

しかし、世界最大の祭典である五輪は私たちを夢中にさせるあまり、危機感を喪失させる。直接的には「無観客」「バブル開催」で感染が避けられても、間接的には間違いなく感染の拡大につながる。五輪開催が感染拡大に無関係とは言えないはずだ。

大切なのは、オリンピックに夢中になって失いかける危機感を保つバランス感覚だろう。物事には必ず、良い面と悪い面がある。五輪も同じである。

厳しい状況の背景には、インド由来の変異ウイルス「デルタ株」(L452R)の感染力の高さがある。

アメリカのCDC(疾病対策センター)によると、デルタ株の感染力は1人が5人~9.5人に感染させる可能性があり、従来の新型コロナに比べかなり高い。空気感染する「水ぼうそう」のウイルスと同じぐらいの感染力に匹敵するという。

さらにCDCは、重症化したり、死亡したりするリスクが高くなる傾向にあり、ワクチンを接種した人でも接種をしていない人と同じように感染を広げる可能性を指摘。「感染の局面が変わった」と注意を呼びかけている。

「行動変容につながるメッセージを打ち出せ」と朝日社説

7月31日付の朝日新聞の社説は「菅首相や小池百合子都知事は今こそ、専門家や医療現場の強い危機感を正面から受け止め、国民の行動変容につながるメッセージを打ち出さねばならない」と冒頭で主張し、最後にこう訴える。

「根拠なき楽観を排し、言葉を尽くして現状を説明して国民に協力を求めるべき時だ。首相にその先頭に立つ覚悟があるのかが、問われている」

見出しも「宣言地域拡大 根拠なき楽観と決別を」である。

緊急事態宣言を出す感染状況のなかで、オリンピックを開催する。「楽観」というよりも異常である。菅首相には現状を一歩引いた鳥の目で俯瞰してほしい。

朝日社説は指摘する。

「政府は当初、新たな措置に慎重だった。感染者が増えても、ワクチン接種のおかげで、重症化しやすい高齢者は大幅に減り、重症者は抑えられているというわけだ。しかし、ここ数日の感染者の急増に押され、判断を一転させた。そのこと自体、現状認識や見通しの甘さを如実に示している」

この朝日社説の指摘は正しいと思う。菅政権の現状認識と見通しは甘過ぎる。甘いから緊急事態宣言の地域の延長や拡大など小手先の対策しか取れないのである。どう考えても国民は緊急事態宣言に慣れ、緊張感には結び付かない。しかも感染の拡大につながるオリンピックまで開催してしまった。