菅首相は五輪開催国の義務と責任を自覚しているのか

続く8月1日付の朝日社説は「五輪折り返し 安全・安心を見直して」との見出しを掲げ、「問題は、持てる力を存分に発揮できる環境を、主催する側が物心両面で用意しているかだ」と指摘し、「パンデミック下で強行されたことで調整不足の選手が多く、記録は総じて低調だ。加えて周囲に感染者が出て、本番直前の練習の自粛を余儀なくされたというケースも出ている」と書く。

アメリカ疾病予防管理センター
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パンデミックという非常事態のなかで開催されている東京五輪は、否応なしに今後のオリンピック史に残るだろう。多くの反対意見を押し切って開催した以上、菅政権は覚悟を持つべきだ。「持てる力を存分に発揮できる環境」を用意することは、開催国日本の義務であり、責任である。

朝日社説は指摘する。

「ウイルスが国外から持ちこまれるのも、日本から国外に広がるのも防ぐ。その約束はどこまで果たされているか。立派な行動規範をつくっても守られなければ意味がない。違反行為に対する罰則も含め、大会開催の条件とされたものがうやむやになってはいないか」

東京五輪の開催に強く反対し、「中止の決断を首相に求める」(見出し)と5月26日付で掲載した朝日社説らしい指摘である。

朝日社説は「他にも選手・関係者を乗せる専用バスの運行トラブルや弁当の大量廃棄など、招致時のアピールポイントだった運営能力や大会の理念そのものに疑問符がつくことが、開会後も相次ぐ」とも指摘し、最後にこう主張する。

「祭典を開催する側の姿勢と責任は、最後まで問われ続ける」

繰り返すが、菅首相には義務と責任を自覚してもらいたいと思う。

「新しい視点から実態に応じた手法に切り替えろ」と読売社説

7月29日付の読売新聞の社説は書き出しで「東京都で新型コロナウイルスの感染者数が過去最多を記録するなど、コロナ禍は重大な局面を迎えた。これ以上の感染爆発につながらぬよう対策を一層強化する必要がある」と主張し、こう呼びかける。

「ただ、これまでと異なる特徴も表れている。冷静に状況を見極め、新しい視点から実態に応じた手法に切り替える時機ではないか」

WHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言したのが、昨年の3月11日。あれから1年半近くがたち、感染の状況は変化している。新たな局面に応じて対策を切り替えるのは当然である。

読売社説はこれまでと異なる感染の特徴を挙げる。

「感染者の中心は若年層で、都内では30歳代以下が全体の7割を占める」
「ワクチンの接種が進む65歳以上は、感染者の割合が全体の3%程度で、コロナ禍が始まって以来の低水準にある。全体の重症者数も第3波の半分程度だ。死者数がゼロの日も増えている」
「40~50歳代の重症者が増え、病床の逼迫が心配されている」

若者中心の感染増で、高齢者の感染が少なく、重症者数も抑えられているとは言え、楽観はできない。相手は人類が初めて遭遇した新型ウイルスである。感染者の数が増えれば、それに応じて重症者や死者の人数も増えてくる。この重症者と死者の増加は、感染者数の増加から遅れて現れるため注意が欠かせない。