【山口】紳助さんが実際に何をやったかというと、まずは売れている芸人の漫才をすべて録音して書き起こして、どこでどうボケて、どうツッコミ、どういう種類の笑いを取っているのか、ということを分析していく。

すると「落ちのパターンは8割一緒」「つまらないネタを直前に入れると面白いオチが光る」といった具合に言語化が可能になるんですね。紳助さん自身は「お笑いには教科書がなかったので自分で教科書をつくろうと思った」と言っていますけど、もう完全に笑いの経営学なんです。

だけど、それをほかのみんなはやらない。なぜかというと、努力していると安心するからです。

【楠木】鋭い。

「ひたすら漫才の練習をする」では成功できない

【山口】漫才の練習をしているとなんとなく前に進んでいるような気がして安心する。確かに、それで多少は漫才がうまくなるということもあるでしょう。

ですが、自分がお笑いタレントとして本当の意味での生きていく場所を見つけないことには、職業として続けていくことはできないわけです。紳助さんの場合、その努力のレイヤーというか、努力の質がほかの芸人さんたちとは違っていたと思うんですね。

【楠木】だからスキルを身につけていく努力と、センスに至るまでの……それを努力と言うかどうかは別にして、そこはやっぱり違いがあると思うんですよね。

【山口】「センスに磨きをかけていく」という、やっぱり紳助さんが言っているのもそこにつながることだと思うんです。だから、自分の持っている間合いとか、話し方とか、見た目とか、お笑い芸人として自分をどうプロデュースするか、という視点ですよね。

自分自身はどこだったら勝てるのか、それをもう意図的に自分らしさを磨いていくということが、ほかの人から見たら努力に見えないかもしれないけれども、そっちのほうが本当の努力なんだと。

だから、お笑いタレントとして一流になりたければ、「ひたすらに漫才の練習をする」というわかりやすい努力ではなく、その上位のレイヤーにある「お笑い芸人としての戦略を考える」という努力をやりなさいということを言っているんですが、これはお笑い以外の世界で生きている、私たちのようなビジネスパーソンにとっても示唆に富んだ話だなと思うんですよね。