センスがない人は自分のセンスのなさに気づいていない
この三つは全部センスに深くかかわっていると思うんですよ。1年目から「エクセルでこれができなきゃダメだ」とか「英語はこのぐらいできるようになれ」なんてことを言ってもあんまり意味がない。
それは自然とフィードバックがかかるんです。スキルの重要な特徴として、TOEICが300点だと、やっぱりさすがにもうちょっと英語を勉強しようかなという気になるものでしょう。だから放っておいてもいい。
ところが、センスはフィードバックがかからないので、ない人はないままいくことになる。これがセンスの怖いところ。なぜかと言えば、センスのない人はそもそも自分にセンスがないということがわかっていないんですよね。
だから洋服のセンスがない人はいつまでたってもない。フィードバックが自然にはかからないから。
【山口】フィードバックに気づくということ自体がもうセンスですからね。
【楠木】そうですよ。だからセンスを身につけるためには、本人が気づいていないようなところで第三者の助言が有効になると思うんです。
【山口】おそらくセンスにおける事後性の問題というのは、昔もあったと思うんです。それでもやっぱり師匠に対する信用であったり、ずっとこういうふうにやってきて師匠の師匠もそうだったんだというようなことが、ある種のクレジットになっていたのかもしれない。
【楠木】そうでしょうね。少なくとも主観的にはクレジットがないと成立しない。ただそういった「修行」によってひどい目にあった人もいっぱいいて。
【山口】それはきっといますよね。
島田紳助が若手芸人に「努力するな」と断言したワケ
【山口】2011年に芸能界を引退された島田紳助さんが、吉本の若手に対して明確に言っているのは「努力するな」ということなんですね。その発言がDVD(『紳竜の研究』2007年製作/アール・アンド・シー)にも残っているんですけれど、ここで言う努力とは漫才やコントの稽古ということですね。
若手は不安でしょうがないのでじっとしていられない。すると何をやるかというと、やたらと漫才の練習をしちゃうわけです。だけどそんなことは紳助さんに言わせたら順番が違うと。
「どうやったら売れるか」という戦略のないままにひたすらに漫才の稽古をする、そんな不毛な努力をするならまずは「笑いの戦略を立てろ」と紳助さんは言っている。お笑いというのはマーケットであり、実は競合がいるんだと。
紳助さんの当時だとB&Bだとかツービートだとかオール阪神・巨人といった面々がいるなかで、彼らがお笑いのマーケットでどういうポジショニングを取っていて、自分の笑いのセンスや見た目だったら、誰のポジションの近くだったら取れるか、芸能界でどこのポジションが狙えるのかと、それだけを考え続けろと言っているんですね。
【楠木】なるほど。