東京オリンピックの開会式では、約150人の選手たちが白のジャケットと赤のボトムス姿で行進した。手掛けたのは紳士服大手のAOKIで、選手一人一人を採寸し、体型に合わせたスーツを仕立てた。その舞台裏を、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが書く――。

※本稿は、野地秩嘉『新TOKYOオリンピック・パラリンピック物語』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

2020年夏季オリンピック東京大会の開会式で、手を振りながら入場する日本選手団ら=2021年7月23日、東京都内のオリンピックスタジアム
写真=Sipa USA/時事通信フォト
2020年夏季オリンピック東京大会の開会式で、手を振りながら入場する日本選手団ら=2021年7月23日、東京都内のオリンピックスタジアム

招致団に始まり、平昌、そして東京へ

AOKIがオリンピックに関わった最初のきっかけは2013年9月、東京オリンピック・パラリンピック大会の招致団が着用する公式ウエアを担当してからだ。

その後は平昌冬季オリンピック(2018年)の日本代表選手団が着る公式服装を担当した。平昌冬季オリンピックでは268人の日本代表選手団の式典用の服を作製している。

そして、平昌の経験を生かして東京オリンピック・パラリンピック大会の公式服装作製事業に応募したのは2019年4月。書類による審査とプレゼンテーションを経て選ばれたのである。

担当するのは、商品戦略企画室の本田茂喜が率いるチームだ。

「公式服装はデザインと機能性の融合です。新合繊(※)はまだまだ進化していく素材です。わたしたちは長年、新合繊を扱ってきましたからやれると思って応募し、結果を出したんです」

※1980年代後半に日本の繊維業界が開発したポリエステル素材。布の質感に合わせて糸の段階から伸縮性などを設計できる。

工字繋ぎ、七宝柄、うろこ柄…和の文様をふんだんに

東京大会の公式服装には2種類がある。開会式用と式典用だ。式典用とは結団式、解団式などの式典に着用する。

開会式用は男女とも白のジャケット赤のパンツで、女子はパンツの他、キュロットのタイプもある。いずれもポリエステル100パーセントである。

式典用は紺のジャケットに白いパンツを合わせる。これも女子はキュロットタイプも用意されている。式典用ジャケットはポリエステルではなく、麻100パーセント。式典用は屋内での着用を想定しているので、麻になった。だが、麻は伸縮性に欠ける。そこで、本田は麻を編み、ニット地に仕立てるというくふうをした。

開会式用の白いジャケットには「縁起の良さ」を入れることにした。工字繋ぎと呼ばれる紋様で、「工」という漢字が続く地紋になっている。工字繋ぎは芯を貫く意志の強さを表現したもので、着物の地紋によく使われるものだ。また、ネクタイ、スカーフ(式典用)には七宝柄、うろこ柄、縞柄を用いた。いずれも和風の粋な紋様で、これもまた縁起の良さに通ずる。

シャツは通気性、伸縮性を重視したポリエステル製の編み地である。