本田がこだわったジャケットの金ボタン

加えて、本田がこだわったのが式典用ジャケットに付ける金ボタンだ。

国立競技場
写真=iStock.com/ebico
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「アスリートはみなさん、ゴールドメダルを取りたい人たちです。ですからジャケットには金ボタンと決めました。

それに、選手の方々はオリンピックのユニフォームをとても大切にされています。かつての1964年大会のユニフォームを保管されている代表の方々も大勢いらっしゃるくらいですからね。ボタンの金メッキは50年経っても色褪せないようなタイプにしたんです。

洋服は仕上げの段階で検針機という機械を通します。万が一、針が洋服に残っていたら大変なことになります。それで金属探知機みたいな検針機を通すのですが、検針機を通すためのメッキ加工は表面が剥げやすい。ですから、ボタンだけは別に検査をして、服だけを検針機を通すことにしました」

審判団のユニフォームは「ウォッシャブルで早く乾く」

彼はできることはすべてやった。やり尽くしたと言える。新合繊という素材を使い、デザインには縁起の良さを取り入れ、耐久性のある金メッキをボタンに施した。

また、審判団のユニフォームは同じように新合繊を用いて、冷涼感のあるものに仕立てている。

審判団ユニフォームには2種類ある。ジャケットとパンツはAOKI、ポロシャツとパ
ンツというカジュアルな審判ユニフォームは同じく公式スポンサーのアシックスが担当する。

なお、両社の審判用ユニフォームはどちらもウォッシャブルで速乾性がある。

真夏の東京では選手よりも審判のほうが屋外にいる時間が長い。汗だくになるのはわかりきったことだ。伸縮性、通気性もさることながら、毎日、洗濯機で洗うことも計算に入れなければならないのである。

選手団1600人を一人一人採寸する予定だったが…

公式服装を作成するうえで、大切なのは採寸の精度だろう。AOKIには日ごろからオーダースーツの採寸をしているエキスパートが何百人といる。今回は全社員約5000名のなかから300名を選抜した。選抜された者たちは正確を期して、採寸する講習を受け、代表選手たちの採寸と製作に臨んだ。なんといっても1600人の採寸だ。しかも、代表選手は開会の直前まで決まらない。採寸に携わるスタッフは不眠不休を覚悟した。

だが……。

2020年3月、東京オリンピック・パラリンピック大会はコロナ禍で1年延期と決まる。

代表選手の顔ぶれも変わるのだから採寸、製作ともにあらためてやり直すことになった。東京2020公式ライセンス商品としてスーツも売り出しはしたが、これもいったん、白紙に戻している。