太い部位に合わせると他がぶかぶかになってしまう

本田はアスリートを採寸する時に気を付けるべきポイントをこう説明する。

仕立て
写真=iStock.com/ImageGap
※写真はイメージです

「通常、ジャケットは胸、肩回りが重要なので、そこをまず測ります。パンツは腰回り、太ももから合わせます。

アスリートのみなさんのなかにはももがすごく太い方がいらっしゃる。太ももの寸法を測り、既製の型紙を利用すると、ウエストが96センチとか1メートルになってしまうんです。通常の体型の人ならば太ももが太いとウエストも大きくなるからです。結局、ウエストがぶかぶかで、膝下まで太いままのパンツになってしまうんですよ。すると、若い選手から必ずクレームが来ます。

『僕は太ももが太いのはわかっています。でも、裾のほうまで太いとダボダボになって、カッコ悪くないですか?』

通常体型の型紙は使えません。ひとりひとりの採寸をしたうえで、型紙もまたひとりひとり作らないといけない。お客様の声ですから、わたしたちサービス業はそこを見逃してはいけないんです。テニスの選手でしたら手が長いから、それもまた型紙を作るのです」

ある女子の選手はそうやって作られた体にフィットしたジャケット、パンツに対しても、試着した時にダメ出しをしたという。

「もっとぴったりした服にしたい」

採寸の難しさとはここにある。

本人が気に入ったサイズが「適正」になる

プロのフィッターが採寸して「これが適正です」と伝えても、着る人間が「ノー」と答えたら、それまでだ。オーダーの服とは本人が気に入ったサイズが「適正」であって、フィッターがいくら「このサイズです」と伝えても、本人は受け入れない。

フィッターはつねに着る人の意見と感覚を尊重しなければならないのである。

同社のフィッターのなかで、もっとも多くの採寸をしてきた小野太郎は言う。

「店頭でパーソナルオーダーというサービスをずっとやってきました。スーツ1着の価格は2万9000円からですから、オーダーとしては相当、安いです。採寸してきて、大きめにしてくれというのは年配の男性だけです。あとはみんな、とにかくスマートなシルエットにしてくれ、と」

スマートなシルエットとは、つまり、痩せて見えること。人が洋服に望むことはフィットしていることではない。痩せて見えるサイズが欲しいのである。

AIはフィットするサイズを提案することはできる。しかし、痩せて見えるサイズを提案できるのは人間だけだ。それに、痩せて見えるサイズとはぴちぴちのサイズではないし、だぶだぶでもない。本人が「これならわたしは痩せて見える」と思うサイズだ。科学の問題ではなく本人の気分なのである。