EUROの開催コストが東京五輪の250分の1だった理由
コロナ危機で東京五輪と同じように1年延期して開催されたサッカーのUEFA欧州選手権(EURO2020)はイングランドが主要大会で55年ぶりの決勝に進出したため、イギリスでは最大1834万人がテレビで視聴した。イギリスでは国民の大半が楽しみにしているスポーツ大会は有料チャンネルではなく無料の英BBC放送などで放送するよう法律で定められている。
EURO2020と東京五輪の違いをマセソン教授はこう指摘する。
「最大の違いは大会開催コストだ。UEFA(欧州サッカー連盟)は数年前、EUROを欧州大陸全体のイベントにして、個々の都市がいくつかの試合を招致できるように決定した。過去の大会は1つの国か、2つの国で行われてきたため、多くの国が大会開催のため新しいスタジアムを建設し、インフラを整備する必要があった」
「1つか2つのワールドクラスのスタジアムがあっても、8つも10もない国もある。しかし今回から分散開催になり、10カ国11都市が試合を招致できた。それぞれの国はワールドクラスのスタジアムを少なくとも1つぐらいは持っており、新しいインフラは必要なかった。コストは東京五輪の250分の1である約1億ドル(約110億円)に収まったはずだ」
五輪は“高嶺(高値)の花”になりつつある
ナチスドイツはその力を国内外に誇示するため、それまでの五輪の10倍の費用をかけて1936年ベルリン五輪を開催した。それ以降、今日に至るまで五輪の開催費用は膨張し続けており、IOCはすでに五輪の開催都市を見つけるのに苦労している。今回のコロナ危機は五輪開催には経済的コストだけでなく、健康的リスク、政治的リスクを伴うことも浮き彫りにした。
五輪の開催コストがこのまま高騰を続けると、手を挙げる都市が出てこなくなる恐れがある。そして公共放送も巨額の放送権料を支払えなくなるだろう。
実際、英公共放送のBBCは、ロンドン五輪やリオ五輪では双方向チャンネル(レッドボタン)を通じて全競技を無料でライブ放送した一方、東京五輪では2つの競技しか同時に放送できなくなった。米放送大手ディスカバリーがBBCに競り勝ち、24年のパリ五輪
だが、イギリスの視聴者は自国の代表選手をテレビで応援するために東京五輪から初めてお金を払わなければならなくなり、不満が爆発した。五輪はエリートの、エリートによる、エリートのための祭典になったことに世界が気づき始めている。低所得者層にとって五輪はすでに“高嶺(高値)の花”になりつつあるのだ。
「五輪嫌い」を増やさぬためにも開催方法の見直しを
五輪開催を持続可能にするためにはまずコスト削減が求められる。そのためには恒久的な開催地を設けたり、EURO2020のように分散開催したりするなどの工夫が必要だろう。
五輪がスポーツコンテンツの宝箱であることに変わりはない。しかしバッハ会長は悪名高き「ぼったくり男爵」を卒業して「あしながおじさん」に変身しなければなるまい。さもなければ、コロナ危機下で強行された東京五輪をきっかけに「五輪嫌い」が世界中に拡散するかもしれない。