「五輪開催の改革を検討する時が来た」

近代五輪はコロナ危機前から限界を露呈していた。開催都市が負担するコストが膨れ上がっていたからだ。1960年から2016年にかけ、五輪を開催すると平均して156%ものコスト超過が発生している。

この7月、国際通貨基金(IMF)のサイトに「五輪開催のコストが合理的に期待される収入を常に上回っているため、開催地を固定することを含め、開催方法を大幅に改革することを検討する時が来た」という論文が掲載された。

執筆者は米カレッジ・オブ・ザ・ホーリー・クロスのビクター・マセソン教授と米レイク・フォレスト・カレッジのロブ・バーデ教授の2人だ。アメリカで五輪開会式をTV視聴する人が過去33年間で最低を記録したことについてマセソン教授はこう解説する。

「低視聴率は予想されたことだった。スポーツ大会がアジアやオーストラリアで開催される場合、時差の関係でアメリカのテレビ視聴率は下落するという問題を抱えている。今回は開催を望まぬ日本国民に五輪を押し付ける形になり、多くの人がそれぞれ少しずつ罪悪感に苛まれていた。そのため、テレビのスイッチを入れるのをためらったのだろう」

バッハ会長の頭の中にあるのはテレビで五輪を放送することだけ

コロナ危機のため無観客での開催を強いられる影響についてはこう分析する。

「無観客でもアスリートに与える影響はそれほどない。バスケットボールやサッカーはすでに無観客で行われていた。しかし8億ドル(約880億円)のチケット収入と少なくとも10億ドル(約1100億円)の観光収入がなくなることは主催者への直接の打撃となる。さらに10億ドルのスポンサーシップ収入がぶっ飛ぶ恐れもある」

IOCのトーマス・バッハ会長が米紙ワシントン・ポストで「ぼったくり男爵」と揶揄やゆされたことについてどう思うか、尋ねてみた。

マセソン教授は「東京五輪はIOCと開催都市のインセンティブが大きく異なることを浮き彫りにした。バッハ会長の頭の中にあるのはテレビで五輪を放送することだけだ。それがある限りIOCの収入は確保される。IOCはコロナ危機における日本の健康リスク、大会延期による開催都市の負担、政治的影響を全く気にかけていないことをあからさまに示した」と語る。

「東京五輪はコロナ危機前から大惨事だった」

東京五輪と同じようにロンドン五輪もリオ五輪も実際にかかったコストは当初の予算をはるかに上回っていた。ロンドン五輪の当初予算は40億ドル(約4400億円)だったが、コストは約160億ドル(約1兆7600億円)に達した。収入でコストを埋めることはとてもできなかった。

「ロンドン五輪は地元で非常に人気があったが、リオ五輪は東京同様、費用がかさみ現地で大規模な抗議活動を引き起こした」とマセソン教授。「東京五輪は経済面でも大惨事だ。しかしコロナ危機が発生する前でさえ、完全な災難だったことを認識することが重要だ」

「東京五輪の当初予算は73億ドル(約8000億円)。それが公式の数字で154億ドル(約1兆7000億円)、非公式では250億ドル(約2兆7500億円)にまで膨れ上がったと言われる。これはすべてコロナ危機が起きる2019年12月までに生じている」。新国立競技場の建設費だけでも計14億ドル(約1540億円)だ。

「日本はコロナ危機の最中に五輪を開催することになるとは運が悪かったと言いたくなるが、コロナ危機は200億ドル(約2兆2000億円)の赤字に50億ドル(約5500億円)の赤字を上乗せしただけであることを忘れてはいけない」