男は知能の高低差が激しい
「外向的/内向的(報酬系)」と「楽観的/悲観的(損失系)」は進化のなかでもっとも古く、哺乳類や鳥類をはじめ多くの動物でパーソナリティの個体差が観察されている。「同調性」「共感力」「堅実性」は向社会性のパーソナリティで、言語を獲得したヒトが親密で複雑な「評判社会」を形成したことで急速に発達した。
共感力には明らかな性差があり、堅実性は平均が同じでも女に比べて男の方が分散が大きい(どちらのサイドでも極端なケースは男が多い)。同調性は「ヒトの本性」だが、平和で安定した社会ではばらつきが生じる。
「経験への開放性」は進化のなかでもっとも新しいパーソナリティで、美や芸術、文化の誕生に関係している可能性がある。
ビッグファイブのパーソナリティから「知能」が除外されているのは、知識社会においてその影響力がとてつもなく大きいからだろう。
知能に関しては、男女で平均は同じだが、分散は男の方が大きい(極端に知能が高い者と、極端に知能が低い者は男に多い)ことと、男は空間把握能力(数学・論理的知能)に優れ、女は言語的能力に優れているとの性差が(批判はあるものの)多くの研究で示されている。
「美しい子ども」という不都合な事実
「外見」は疑いなくパーソナリティに大きな影響を与えているが、自尊心との関係(魅力的な外見をもつ者は自尊心も高い)以外はほとんど研究の対象になっておらず、心理学における「暗黒大陸」と化している。
その理由は、外見が現代社会においてきわめて大きな価値をもつにもかかわらず、その分布が不均衡なため、研究者がテーマとして取り上げるのを躊躇しているからではないだろうか。
外見のちがいを扱った数少ない研究では、魅力とパーソナリティの関係についてこう書かれている(※1)。
見た目の美しい子どもたちの4分の3がうまく環境に適応でき、人に好かれ、優秀だと見なされるが、見た目のさえない子どもたちでは、その割合は4分の1にすぎない。顔立ちのよい子どもはそうでない子どもに比べて好意的な扱いを受け、人気も高く、実際に頭もいい。この「頭がよくなる」という効果については、美しさと頭脳の関連を示す具体的な事実も根拠もないとして疑問視されることが非常に多かった。しかし、この説の論破を試みたものさえも含むすべての調査が、子どもの美しさと知能につながりがあると明らかにしている。(中略)11歳の子を対象とした英国の調査は、その関連性を否定するために実施されたものなのに、結果的には正しいことを認めざるを得なくなった。
「経済格差」ばかりが大きく取り上げられるが、思春期以降の若者にとって死活的に重要なのは、給料が数万円(時給が数百円)多いか少ないかではなく、性愛を獲得できるかどうかの「モテ/非モテ格差」だろう。
アメリカの大学生を被験者にした「お見合い」実験では、モテるかどうかは「外見の魅力」がすべてで、「男らしさ/女らしさ」を含む性格も、成績がいいか悪いかも、モテにはほとんど関係なかった。
女性の写真を使った日本の実験でも、「デートに誘いたい」「恋人にしたい」理由は「美しさ」が飛びぬけて多かった(※2)。――日本社会で大きな問題になっているひきこもりは「非モテ」問題だが、この「不都合な事実」には誰も触れようとしない。
これらのパーソナリティは長大な進化の過程で発達したもので、遺伝学、脳神経科学、大脳生理学などによってかなりの程度まで説明でき、今後、解明はさらに進んでいくだろう。
※1 キャサリン・ハキム『エロティック・キャピタル すべてが手に入る自分磨き』共同通信社
※2 越智啓太『美人の正体 外見的魅力をめぐる心理学』実務教育出版