「世界を変える」アルゴリズム

バートレットのパーソナリティが解析される場面は興味深いので、全文引用しよう。

アルゴリズムが魔法を駆使しているあいだ、モニターには小さな車輪がくるくるまわっている。そして、結果が不意に表示された。

「偏見にとらわれていない。リベラル。芸術家肌。きわめて高い知性」。私は「このシステムがどれだけ正確かは、これではっきりしましたよ」と軽口を叩いた。ただ、狐につままれた思いをしたのは、宗教には無関心だが、かりに信仰するとしたら、カトリックであると予測されていた点だ。

あまり褒められた話ではないが、五歳から一八歳まで私が在籍していたのはカトリック系の総合制学校(コンプリヘンシブ・スクール)である。いまでも宗教には関心はあるが、だからといって教会に通っているわけではない。

同じように、私はジャーナリズム関連の職業に携わり、とりわけ歴史に強い関心を寄せているとアルゴリズムは分析していた。大学では歴史を専攻し、歴史学の研究方法をテーマに修士号を取得している。

以上の予測はすべてフェイスブックの「いいね!」がもとで、私の経歴や養育歴は関与していない。「それは、この分析法に関し、一般の人が首をかしげる点のひとつでもありますね」と教授は言う。「あなたがレディー・ガガについて“いいね!”ボタンを押せば、もちろん、あなたはガガが好きだと私も断言できますよ(略)。

ソーシャルネットワーキングサービスの概念
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

ですが、このアルゴリズムがまぎれもなく世界を変えてしまう点は、一見するとまったく無関係のようですが、音楽嗜好あるいは読書傾向からあなたの信心深さ、リーダーとしての素質、政治的信条、パーソナリティーなどに関し、正確を極めた情報を抽出できる点です」

私たちはみな「人生という舞台」で主役を演じている

コシンスキーは心理学者ではなく、ワイリーらケンブリッジ・アナリティカのスタッフもほとんどがデータサイエンティストで心理学の専門教育を受けているわけではなかった。そうなると、使ったのは標準的な「主要5因子性格検査」だろう。

スマホで性格テストができるようなアプリ(マイパーソナリティ)をつくり、フェイスブックやツイッターのユーザーに、アマゾンのメカニカルタークを使って100円か200円の謝礼を支払って回答してもらう。

誰だって自分の性格を知りたいと思うから、この程度の報酬でもみんなよろこんでやってくれる(ケンブリッジ・アナリティカの実験では初日だけで1000件を超えるデータを収集し、オフィスでシャンパンを開けて成功を祝った)。

こうしてビッグファイブのパーソナリティがわかったら、それをフェイスブックの評価(現在は「ひどいね」から「超いいね!」まで7種類)と関連づける。

これを何千人、何万人と行なってビッグデータにして解析すると、SNSの行動とビッグファイブの性格の相関関係がわかってくる。そうなれば、これを逆にして、SNSの行動から性格を高い精度で予測できるようになる。

このようなことが可能になるのは、私たちがみな「人生という舞台」で主役を演じているからだ。役者がすべきことは、自分の役柄を観客に向けて発信することだ。「いいね!」やSNSへの投稿は、「これがわたしのキャラです」というメッセージを発するツールなのだ。