最初のデートで「どんな曲が好き」と訊く理由
アメリカの大学生74人に、ビッグファイブ性格質問票に回答してもらってから好きな曲上位10曲をあげさせた研究がある(※4)。その10曲をCDにまとめ、8名の判定者に聴かせて、選曲した学生の性格を評価してもらった。
この実験では、判定者は学生の性別や年齢、出身地や人種などについてなんの情報も与えられていない。これは、音楽について「いいね!」10個を与えられたのと同じだ。
その結果は、ビッグファイブ特徴のうち4つで、判定者の評価は学生が自己申告した性格に有意に相関していた。相関係数(マイナス1からプラス1までの値をとり、1に近いほど関係が強い)は「経験への開放性」0.47、「外向性」0.27、「神経症傾向」0.23、「協調性」0.21だった(「堅実性」は音楽からは予測できなかった)。
こうした相関はたいしたことないように思えるかもしれないが、判定者が音楽の好み以外なにも知らないことを考えれば驚くべきものだ。
この高い精度をもたらしたのは、選曲者の好む音楽ジャンルと曲の音響的特徴だった。情動の安定した学生はカントリー音楽を好み、外向的な学生はエネルギッシュで歌唱の多い音楽を好んだ。
このことは、演歌、Jポップ、オペラ、フリージャズが好きなひとを思い浮かべると、自然にその人物像が浮かび上がってくることからもわかるだろう。私たちはさまざまな好みから、相手が何者かを読み取ろうとしている。最初のデートで「どんな曲が好き?」と訊くのは、それが相手の性格を知るよい指標になるからだ。
これはファッションも同じで、音楽や洋服の趣味がまったく合わないひととは友だちになれないし、恋人としても相性が悪い。スピリチュアルは、自分にぴったりの相手と出会うためにつねに(無意識の)メッセージを交換しているのだ。
※4 Peter J. Rentfrow and Samuel D. Gosling(2006)Message in a Ballad: The Role of Music Preferences in Interpersonal Perception, Psychological Science
「自分のキャラを発信し、相手のキャラを読み取る」
ヒトは徹底的に社会的な動物なので、共同体(友だち集団)のなかで自分の地位を確保するためにも、恋人選びのためにも、「自分はこのようなパーソナリティだ」と絶え間なく発信しつづけなくてはならない。
このゲームはきわめて複雑で、相手から脅威だと思われれば紛争になるし、なんのインパクトもないと無視されてしまう。露骨に性的なアプローチをすると警戒されるが、アプローチしなければ相手にされない。
わたしたちは、ものごころついてから、「自分のキャラを発信し、相手のキャラを読み取る」という社会ゲームをえんえんとやっている。
リアルの世界でも、ファッションや音楽の趣味、読んだ本や好きな映画、仕事の態度や政治的な発言などからなんとなく「好き/嫌い」を決めている。だとすれば、これがそのままSNSに移植されるのは当然のことだ。
コシンスキーやケンブリッジ・アナリティカは、「好きな音楽10曲」の実験をはるかに大規模に行ない、AIに機械学習させ、SNSのデータだけでほぼ完璧にパーソナリティを判定できるアルゴリズムを開発した──という「理屈」はわかっても、職業や大学の専攻ばかりか、子どもの頃にカトリック系の学校に通っていたことまでコンピュータで読み取れるというのは、「技術」というより「魔術」にちかい。