南北改善のためには、東京五輪も利用しようとする

今年3月1日、文在寅大統領は「3・1独立運動」式典での演説の中で東京五輪に言及し、「韓日、南北、日朝、朝米の絶好の対話の機会になる。成功させるために協力する」と述べていた。同式典は日本の支配に抵抗した1919年の3・1独立運動を記念するものだ。

文在寅氏は、南北関係の改善を自らの重要課題と考え、東京五輪に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記を招待し、東京五輪をアメリカと北朝鮮の対話の舞台にしようと画策した。東京五輪の開会式に各国の首脳クラスを集めて北朝鮮の核・ミサイル開発や日本人拉致の問題について議論する会議の開催を、文在寅氏は日本や関係各国に水面下で打診していた。

だが、日本側の支持が得られず、北朝鮮にも相手にされなかった。

おのれの念願である朝鮮半島の南北改善のためには、東京五輪も利用しようとする。文在寅氏の腹の中はどこまでも自己中心的なのである。

ブルーハウス
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日韓関係を「戦後最悪」とした張本人は文在寅氏

ところで、文在寅大統領は今年1月18日、新年の記者会見で徴用工問題と慰安婦問題についてこれまでと異なる発言をして日本政府を驚かせた。

徴用工問題については「日本企業の資産が現金化されるのは韓国と日本にとって好ましくない」と話し、初めて現金化を避けたいとの考えを示した。文在寅氏はこれまで「資産売却を許容する司法判断を尊重する」との意向を繰り返し表明していたため、周囲を驚かせた。

徴用工問題の訴訟は、2018年に大法院(最高裁)で日本企業の敗訴が相次いで確定し、日本企業の資産を強制的に売却する手続きが進んでいる。

一方、慰安婦の問題に対しては、ソウル中央地裁が元慰安婦に対する損害賠償を日本政府に命じた判決(1月8日)に触れ、「徴用工問題にこの慰安婦判決の問題が加わり、困惑している」「韓国政府は日韓合意を公式的なものだったと認める。そのうえで元慰安婦ら原告も同意できる解決策を見出したい」と語った。文在寅氏が慰安婦訴訟の判決について意見を述べたのもこれが初めてだった。

文在寅氏は慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決される」とする2015年12月の日韓合意を「当事者の意思を反映していない」と全面否定してきた。ところが、新年の記者会見でその考えを180度翻した。

徴用工問題も慰安婦問題も、以前とは違う考えを示してはいるが、問題の解決に向けた具体的な動きはない。しかし日韓関係に深い傷を付けた張本人は文在寅氏である。その責任をどう考えているのか。ここは潔く大統領職を辞するのが筋である。見送ったとはいえ、それを日本で開催されるオリンピックに便乗する形で日韓首脳会議を開いて与党に貢献しようとまで画策したのだから、まさに「人のふんどしで相撲を取る」である。