金大中は二度と同じ屈辱を味わいたくないと三大改革に取り組んだ。1つ目はグローバル化。それまでは主に日本が経済的なパートナーだったのを欧米はじめ世界に目を向けるようにし、学校では英語教育に力を入れた。

2つ目はIT化だ。韓国をネット先進国にしようと通信インフラの整備やIT企業の育成に取り組んだ。

3つ目は景気対策だ。例えば、88年のソウル五輪前後に粗製濫造で建ったマンションを壊し、2つ3つ合わせて巨大な高層マンションを建てた。しかも容積率を2倍にしたから住戸数は10倍ぐらいになり、70%ほど住宅供給を増やすことでソウルに人々を呼び込んだ。また、クレジットカードの利用に大金が当たるクジをつけ、急速にクレジットを普及させた。もともとの狙いは税金を徴収しやすくするためだったが、これも景気回復に貢献した。韓国がIMFの借金を期限より早い01年に全額返済できたのも、こうした経済政策の成果があったからだ。

金大中以降の韓国は、日本と疎遠になった。優秀な人材の留学先は日本からアメリカへ移り、米国流の経営を学んでグローバル市場へ目を向けるようになった。韓国財閥も積極的に人材と事業の国際化にまい進した。

今、男性ヒップホップグループの「防弾少年団(BTS)」などが、アメリカを活動の場としているのは象徴的だ。スウェーデンのABBAと同じで英語ができるからすぐに世界をめざせる。世界のどこでも活躍できる人材を育てた金大中の功績だろう。

金大中以降に育った40代より下の世代は、日本人が想像するほど、反日感情が強いわけではない。それ以前の世代がこだわる嫌日、侮日というよりも、日本がもはや眼中になく、世界を見ているのだ。

一番嫌いなのは日本より韓国政府

韓国にはもちろん日本が嫌いな人もいる。その原因の1つが学校教育だ。朝鮮出兵をした豊臣秀吉、征韓論の西郷隆盛、朝鮮半島を併合した伊藤博文が「三悪人」、と依然として教えられている。逆に、その伊藤博文を暗殺した安重根は国民的ヒーローだ。

しかし韓国人が酔っ払って本音で話し出すと、最も嫌っているのは自分たちの政府だとわかる。韓国人の友人に「朝鮮半島は古代から数百の王朝があって、庶民はずっと苦しめられてきた。そうした支配者への恨みは深くて、その最後が日本」と説明されて、なるほどと納得したことがある。

この自国嫌いは「ヘル朝鮮」という言葉に表れている。「こんな国、クソくらえ」というニュアンスだ。過酷な受験戦争を勝ち抜いて一流大学を卒業し、財閥企業に就職したエリートたちでも、40代になるとIT時代に育った若い世代に競争で負けてしまう。50代、60代は出世してラクできると思っていたのに肩たたきにあう。ヨーロッパの企業のように中高年社員を再教育する仕組みはない。年金も少ないから、退職後に(公共交通費が無料なので)フードデリバリー配達員のようなアルバイトで生活する元エリートたちが発した言葉が「ヘル朝鮮」だ。