こうした集団感染はなにも日系企業やオフィスだけではなく、インドネシア企業の工場、オフィスでも多発していると伝えられているが、地元メディアはその詳細を伝えることには積極的ではないといわれている。

それはインドネシア政府の意向もあり、現地メディアはワクチン接種に報道の重点をおいているため、とされている。ジョコ・ウィドド大統領の動静に関する報道も、各地のワクチン接種の会場を視察するニュースが連日続いている状況だ。

より厳しい行動制限、インドネシア政府

こうした6月から7月にかけてのコロナ感染の急拡大に対してジョコ・ウィドド大統領やジャカルタ州政府のアニス・バスウェダン州知事などはこれまでに実施していた「大規模社会制限(PSBB)」などをさらに強化した「緊急大衆化活動制限令(PPKM Darurat)」を7月3日から20日までの期限でジャカルタ首都圏を含むジャワ島全域と世界的な観光地バリ島のあるバリ州に適用した。

主な内容はショッピングモールや飲食店の原則営業停止(飲食店はテイクアウトのみ可能)、医療、医薬、生活インフラなど基幹産業を除く一般企業、オフィス、工場の100%在宅勤務実施、ジャカルタ中心部への車両・バイクの流入制限、宗教施設の閉鎖、学校のオンライン授業実施などとなっている。

さらにインドネシア国内を空路、航路、鉄路などで移動する際は外国人を含めて、PCR検査などによるコロナ陰性証明と同時にワクチンの2回接種を証明する書類の所持、提示義務も科されるようになった。

ロックダウンには消極的な政府

こうしたこれまで以上に厳しいコロナ感染防止対策を打ち出したジョコ・ウィドド政権だが、「ロックダウン(都市封鎖)」の実施には消極的だ。これまでも医療関係者や野党などから「強力な制限でコロナ封じ込め」の必要性が叫ばれてきたが、政府や州政府は「経済活動への影響を考慮」を理由にして踏み切ることはなかった。このため感染急拡大は後手後手の消極策による「人災」との批判も出始めている。

ASEANをみてみると、ベトナムのホーチミン市は7月9日から市全域をロックダウンすることを決め、マレーシアは6月1日から全土でロックダウンを実施、7月に入ってペナン州など一部地域で緩和されている。

またインドネシアの隣国のシンガポールではこれまで厳しい感染対策をとっており、その効果が出ているとして7月12日から活動制限を緩和して、飲食店などで同一グループが店内で飲食できる人数を最大5人に緩和する。これはワクチン接種が順調に進み、既に人口の3分の2が1回目の接種を終えたことを受けての決定だ。

こうしたASEAN各国の中にあってインドネシアは急激な感染拡大と政府による断固とした規制に踏み切れない状況にあり、在留日本人を含めた多くの市民、国民がコロナ感染の恐怖に直面している。

[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、『民主国家への道、ジャカルタ報道2000日』(小学館)など
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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