「一人の人間」として官僚を扱ってきたか
2019年1月となり、自分たちの抱えていた不祥事の取材が一段落したところで、先の考えを実行に移そうと決めた。それがこの「霞が関のリアル」の取材だった。
まず注目したのが官僚たちの働き方。私も長く霞が関を取材していて、官僚の勤務が異常なことは知っていたがそれを記事にしようと思ったことはなかった。それはどこかで、不夜城とも称される霞が関の官僚の働き方を所与のもの、もっといえばどこかで美徳として捉えていたのかもしれない。そこには、官僚を一人の人間として見る視点が欠けていた。当然のことだが、官僚にも家族もいれば、恋人だっている。記事には取材した記者たちが同年代(20、30代)の官僚たちと人として向き合わないと引き出せない本音がつづられていたと思う。
こうしたいわば「共感」を大事にした記事を届ける手段として私たちはネットへの掲載(NHK NEWS WEB)を試みた。幅広い視聴者に届けるテレビと違い、ネットは指向性が強いメディアだ。まずは現場で働く国家公務員にぜひわがこととして感じてもらえる記事を届けたい。そんな思いで取り組んだ。
官僚の妻「子どもがもてない。国に殺される」
そうした結果、記事はありがたいことに予想以上に大きな反響を頂いた。何よりネットならではの良さを実感したのはその「双方向性」だ。それぞれの記事の最後に読者に対して感想や意見を寄せて欲しいと投稿を呼びかけたところ、当事者たる官僚たちから直接反応をもらうことができたのだ。
「公務員の実情を知って欲しい」(30代)、「この組織で働き続けるか思案中です」(20代)、「国会対応や政治との距離に不満があり、総合職を1年で退職した」(20代)など、投稿してくれた多くの人たちは記事に登場する官僚にみずからの境遇を照らし合わせていた。私たちはこうして意見を寄せてくれた官僚たちにすぐにメールなどで連絡をとり、了解が得られた場合は直接会って話を伺った。
こうしたやりとりから、新たな取材テーマやアイデアが次々と生まれたが、中でも気づきを与えてくれたのは官僚の家族からの投稿だった。「子どもがもてない。国に殺される」という切実な内容をメールで送ってくれた30代の官僚の妻。さらに、元官僚だった妻(夫も官僚)から「やっと気づいてくれましたか」というメールが届いた時にははっとさせられた。どれも毎日心身ともにぼろぼろになるまで働く夫や妻の様子を身近でみている者からの悲痛な声だった。そうしたやりとりを通して、その異常な働き方を改めて認識する一方、官僚たちを追い詰めているのは単に物理的な時間だけではないことも強く感じた。