新型コロナウイルスはホテル業界に大きな打撃を与えている。そんな状況のなか、星野リゾートが運営する主要ホテルの稼働率は2020年7月時点で80%以上に戻り、3度目の緊急事態宣言が発出されるまで90%台を保ち続けた。だが、経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「今年の夏以降、3つのリスクに直面するだろう」と指摘する――。
星野リゾート・星野代表 外国特派員協会で会見
写真=アフロ
星野リゾート・星野代表 外国特派員協会で会見=2016年7月14日

去年を「やや」以上に上回るのは無理

読売新聞がこの夏の旅行事情について「星野リゾートも国内ホテルの7~8月の予約件数が前年をやや上回る」とさらっと書いています(東京読売新聞朝刊「緊急事態解除決定 旅行需要回復に期待7月予約4割増」2021年6月18日)。ワクチンと東京五輪でこの夏以降、旅行需要が回復することが業界全体で期待されているのは事実です。でも、この情報の本当のすごさにはお気づきでしょうか?

去年の8月、星野リゾートが運営する主要ホテルでは、星のや軽井沢の客室稼働率は96%、リゾナーレ八ヶ岳が99%、界 箱根も同じく99%でした。去年の夏から秋にかけてほぼほぼ90%台後半の稼働率に張り付いていた星野リゾートが「今年の夏の予約件数が前年をやや上回る」とおっしゃっている。いやいや、どう頑張っても去年を「やや」以上に上回るのは無理です。上限は100%なのですから。これが今年の星野リゾートのすごいところなのです。

星野リゾートを経営する星野佳路社長は、コロナ禍が始まった昨年の5月、社員に向けて「星野リゾートの倒産確率は38.5%」という数字を公表しました。経営者としての危機感は相当なものです。

それからの1年間、日本の観光業界は瀕死の状況に陥りますが、星野リゾートが運営するホテルや旅館は危機感をバネに軒並み高い業績を上げています。ほとんどのホテル経営者が「コロナ禍でやれることは全部やった」と感じながらも肩を落とす中、星野リゾートはいったいどこがすごいのか? 記事にまとめてみましょう。

世界のホテル業界で進む「所有と運営の分離」

最初に星野リゾートが日本の観光業界の中では少し性格が違った企業であるという話をしておきます。これは世界のホテル業界の潮流を意識した経営とも言えるのですが、星野リゾートは戦略上「運営」に特化しようとしています。

世界のホテル業界では「所有」と「運営」の分離が進んでいます。たとえば世界中にあるヒルトンホテルの運営はヒルトンですが、各々のホテルの所有者はそれぞれ違います。正確には「所有」と「経営」と「運営」の分離が進んでいるのですが、それは細部なのでこの記事では触れません。

背景としては星野社長がこのビジョンを打ち出した90年代当時、星野リゾートという企業自体に資本力の制約があったこと、リゾートホテル自体が供給過多だったこと、そして、これからそのようなホテルの再生案件が増加すると予測されていたことなどがありました。実際、星野リゾートはその後の世の中の流れに乗って成長を始めます。