なぜ厳しい質問に答えられるのか

吉村さんの記者会見やテレビ出演を見れば一目瞭然ですが、彼はすべて自分の言葉で語っています。記者会見のときにも原稿に目を落とすことなどないし、プロンプターも使わない。ペーパーもプロンプターも見ないで、カメラの向こうの府民に語りかけています。だから、テレビを見ている人たちにメッセージがよく伝わるのだと思います。

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なぜ、ペーパーやプロンプターを見ずに自分の言葉で話せるのか。様々な立場の人の様々な意見を、手続的正義に基づく適切なプロセスの中でしっかりと聞いているからです。

だから吉村さんの頭の中には、自分の考えだけでなく、反対の意見や持論の問題点、それに対する対処方法などもインプットされている。そのため、反対意見側からの厳しい質問を受けても、彼は自分の言葉ですべて答えられるのです。

実体的正義、すなわち絶対的な正解を追求する人は、持論が絶対的に正しいという前提なので、自分の考えだけを頭の中に残そうとします。そうすると反対意見側からの見え方に気付かない。自分の考えの問題点が見えず、それに対する対処法などについても意識が向きません。自分の考えの正当性は強く主張できますが、問題点を指摘されると慌てふためいてしまいます。

自分の言葉には説得力がある

役人は優秀ですから、会見などの際には一応念のための回答案を作ってくれています。しかし、自分の頭の中にないことを話そうとすると、ペーパーの棒読みになりますし、そもそも役人の回答も、通り一辺倒のもので、周囲の者を納得させるものになっていないことが多い。様々な意見をぶつけ合った適切なプロセスを踏んでいないので、役人自身も表面的な問題点の指摘とそれに対する一応の回答しか用意できないからです。

手続的正義を重視する人は、適切な議論のプロセスをきちんと踏んでいるので、自分の考えへの賛成派、反対派の議論が頭の中に入っています。吉村さんも、自分の考えへの反対派の意見を十分に知っていて、それに対する自分なりの回答を用意しています。だから何を聞かれても答えられるし、ペーパーを見る必要もありません。堂々と自分の言葉で答えているため、説得力があるのです。

危機におけるリーダーのあり方として、重要なのはこの点です。質問されるたびに手元の紙や資料を見ているリーダーでは、「この人で本当に大丈夫?」と、周囲の者や組織のメンバーは不安になります。手続的正義を踏まえているリーダーは、平時であろうと危機であろうと、ペーパーを見ずに自分の言葉で話せます。それが力強いメッセージとして、見聞きする側に伝わるのです。