「別姓にすれば家族が壊れる」右派政治家の歪んだ主張

私は選択的夫婦別姓に大賛成である。そんな私から見れば、政治家の不作為にいら立ちを覚える。安倍晋三前首相ら自民党右派は伝統的な家族観を守る立場から強く反対し、国会で民法改正の議論が進むことを阻止してきたからだ。

「別姓は家族の絆や一体感が壊れる」とか「日本の伝統的な家族観」という程度の理由で価値観を押し付ける政治姿勢にも、私は強い抵抗感を覚える。

選択的夫婦別姓はすべての人に夫婦別姓を強要するのではない。国家が夫婦同性を義務づけるのをやめ、希望者だけが夫婦別姓を選択できるのだから、いったい誰の人権や自由を損なうことになるのか。

仮面をつけて演説する政治家
写真=iStock.com/Cemile Bingol
※写真はイメージです

逆に夫婦同性を強要されて苦しんでいる人々がこれほどいるのだから、その人々を救うために民法を改正して夫婦別姓を選べるようにするのは国会の責任である。

国際的にみても「夫婦同性の強要」は非常識そのものであり、日本の「人権後進国」ぶりを象徴する事例である。国会は一刻も早く選択的夫婦別姓を導入する民法改正を実現すべきだ。政界のキングメーカーとなった安倍前首相に遠慮して民法改正を渋る自民党の国会議員たちには「国会の役割」を再認識してほしいと思う。

最高裁判事の人事も“官邸案件”

私は今の最高裁に極めて批判的である。現在の最高裁判事15人は全員、安倍・菅政権下で任命された。安倍政権は内閣法制局や検察庁、日本学術会議など過去の政権が介入を避けてきた「中立部門」の人事に露骨に手を入れ、それら機関の意思決定を歪めてきたが、最高裁判事の人事も例外ではない。

安倍氏の親友が経営する加計学園の監事を務めていた弁護士を任命したり、日弁連が推薦する弁護士を任命する慣行を打ち破り弁護士になったばかりの刑法学者を任命したり、安倍政権は法曹界の自主性を最大限尊重してきた過去の政権とは違って最高裁人事に深く介入していると指摘されてきた。

その結果、沖縄の米軍基地に関する訴訟などで国側の意に沿った判決が繰り返されている。「最高裁が官邸を忖度そんたくした」という疑念を招かないため、過去の政権は最高裁人事に関与しないように配慮してきたのに、安倍政権の人事決定プロセスは不透明で、人事介入への疑惑は深まる一方だった。

最高裁が今回、夫婦別姓を合憲と判断したのは「安倍氏の意向を忖度した結果」と疑われても仕方がないだろう。

裁判所の本当の役割

とはいえ、私は「この種の制度のあり方は国会で判断されるべきだ」という今回の最高裁の判断には、賛成とは言わないまでも一定の理解をしている。その理由について「司法の役割」と「国会の役割」という視点から説明したい。