プレッシャーが不祥事を生みやすい
警察大学校警察政策研究センター教授の樋口晴彦も、多くの組織不祥事の背景について分析し、プレッシャーが不祥事につながったことを明らかにしている。
たとえば2007年に不適切な取引が発覚した加ト吉事件では、「売上拡大主義型の組織文化により、個々の事業部の責任者に対して売上拡大の強いプレッシャーがかかっていたことが循環取引を誘発した」と述べている。(注2)
(注2)樋口晴彦『組織不祥事研究 組織不祥事を引き起こす潜在的原因の解明』白桃書房、2012年 216頁
民間企業だけではない。各地の警察ではデータの改ざんや不適切な報告といった不祥事が後を絶たない。そこにも企業不祥事と同じ構図がみられる。その一例が大阪府警で2008年から12年にかけて発生した街頭犯罪を過少申告していたケースであり、当時の知事が掲げた「犯罪件数ワーストワン返上」という目標が大きなプレッシャーとして働いたといわれている。
こうした事例から、共同体主義が目にみえない形でプレッシャーをかけ、それが不祥事につながっている実態がうかがえる。
加害者も被害者もとらわれる「承認欲求」
イジメ、体罰、ハラスメント、組織不祥事を取り上げ、それらが共同体型の組織・集団と、共同体主義によってもたらされていることを説明してきた。
ところで個人の立場からみると、自分の外からくるこれらの要因は、心理という内面の要因と絡み合いながら問題を引き起こしている。そこで視点を変え、個人の心理面からこれらの問題に光を当ててみよう。
「心理」の中でもとくに注目したいのが、承認欲求である。そこに注目すると直接手を下した者だけでなく、周囲の傍観者、そしてイジメやハラスメントの場合には被害者もまた承認欲求にとらわれていることがわかる。
それを具体的に説明しよう。
まず体罰やハラスメントでしばしばみられるのは、自分の力や地位を素直に認めようとしなかった者に対して加害者が力尽くで認めさせようとしたり、制裁を加えたりするパターンである。あるいは周囲に自分の力を誇示するため、イジメやハラスメントのような行為に及ぶ場合もある。
ホロコーストでも同じ原理が働いていた
もちろん承認欲求が人を加害行為に駆り立てるのは日本人にかぎらない。ナチスのもとポーランドで大量のユダヤ人を強制輸送し、殺害したホロコースト。それに携わったのはごく普通の労働者たちであり、彼らが自ら残虐行為に手を染めたのは、仲間から臆病者とみられたくないという思いや、軍団の前で面子を失うことへの恐れだったと記されている。(注3)
(注3)C・R・ブラウニング(谷喬夫訳)『増補 普通の人びと ホロコーストと第101警察予備大隊』筑摩書房、2019年