キングダムホールディング・カンパニーは極端な例ですが、王族がビジネスに関わる機会は多く、どのような形であれ、湾岸アラブ諸国では王族、もしくは政府筋と上手く付き合っていかないとビジネスそのものが上手くいきません。

王族や元官僚が参画していない企業ももちろんありますが、そういったところでも政府とは上手く付き合いながら経営しています。

政府の意向やご機嫌を損なってしまえばビジネスを行う権利そのものをはく奪される可能性もあるので、王族や元官僚を抱えていない企業はそのあたりの立ち回りを慎重にやっている印象があります。

企業病からの新しい中小企業の育成に舵を切る政府

日本では、官僚が退職後に関係の深い民間企業や特殊法人などの相談役や顧問になることを“天下り”と呼びますが、中東の湾岸アラブ諸国の王族や官僚で公職についていた人が離職後に民間企業に勤めることもあるので、天下りがあると言えます。

それどころか現職中でも副業や家業が禁止されているわけではないので、政府のプロジェクトに自分の会社や一族の会社を関係させることもあります。そんな財閥ですが、近年色々と問題点も指摘され始めています。

財閥のような巨大企業群だけがあらゆる産業において幅をきかせていると、国家の中における「大企業病」のようになってしまうことと、その富の集中することの弊害を各国政府は意識しているようです。

そのため、政府は財閥のような規模の企業だけでなく、未来の大企業になり得る中小企業をたくさん作りたいと考えて様々な施策を打っています。そのための組織として「中小企業庁」(SME:Small and Medium Enterprises)を湾岸アラブ諸国が設立して、その積み上げた石油の富を原資に中小企業の育成と雇用拡大に寄与しています。

若年層の雇用問題を解決するための新規産業・事業育成

政府がIoT、ハイテク産業、スマート農業などに積極的に支援して新しい産業を起こすだけでなく、若手の起業家に対する投資などが行われています。

鷹鳥屋明『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(星海社新書)
鷹鳥屋明『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(星海社新書)

例えば、サウジアラビアでは近年失業率は10%前後を推移していますが(女性の失業率はもっと高いと言われています)、雇用問題が非常に深刻です。また、若年層の多い人口比率になっているため、年々雇用を生まないと失業者は増える一方になってしまいます。

そのため、財閥のような巨大企業だけで雇用を吸収するだけではなく、若い人たちが新しい会社を次々と設立して未来の大企業を作り、雇用を創出していく方向に舵を切っていこうとしています。

そうなると、人手が多く必要となる産業のほうがいいわけです。なので、現在では国によって若干方向性が違いますが、基本的には労働集約型の製造業、サービス業や観光業などの育成に力を注いでいます。

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