起業しても会社は辞めない、十円ハゲを抱えて復職

しかし、そのうち、今度は中川さんに似合っても、それが似合わない親子が出てきた。それぞれに「似合う」ものを作りたいと考えた中川さんは、骨格診断とパーソナルカラー診断を学ぶことを決める。

親子ワンピースを着る中川さんと長女
親子ワンピースを着る中川さんと長女(写真=本人提供)

育休明けに向けて日本に戻る時期でもあった。復職すれば平日は動けなくなる。復職前には、1カ月間の一時帰国の時期があったのだが、この間に骨格診断とパーソナルカラー診断を学びきれるよう、日本の講師に頼み込んだ。なんとかOKをもらったものの、二人の子どもをまとめてすぐに預かってくれるのは、銀座の一等地の保育園しか見つからなかった。でも、これしかない、と中川さんは自分に思い切り投資した。

この一時帰国の間は、昼間は講義、夜は予復習で睡眠時間はわずかだった。生まれて初めて頭に十円ハゲができた。だが、こうして学んだことを生かして作り直したワンピースは、以前は似合わなかったママ友にも驚くほど似合った。

「やっぱり骨格とカラーは服に関係するんだ」と確信し、これでもっとたくさんの親子を笑顔にできる――2017年、こうして服を作っていこうと決めて起業することにした。「newR」は、中国語で「私の娘」という意味の語の音から名付けた。

夫との約束は「辞めない・借りない」

しかし、安定志向の夫は、中川さんの起業に対して簡単には首を縦に振らなかった。そこで、事業化するにあたり、夫とは二つの約束を交わした。

「会社を辞めないこと」
「借金をしないこと」

その約束を念頭に置きつつ、会社に復職。空き時間を全て事業のために充てることにした。

日本の現状を調べると国内縫製品は2%程度。だからこそ、日本の工場で作る国産にこだわりたいと思った。とはいえ、日本の縫製工場とのコネクションは全くなかった。

そんな段階だった頃、たまたま女性誌『VERY』を開くと、そのページに起業コンテストが掲示されていた。よく見ると締め切りまであと数日しかない。「ママが一番きれいに見える骨格とカラーで作る親子ワンピース」という企画を急いで応募したら、それが採択された。とにかく作らなくては、と工場探しに奔走した。