「会社を辞めるな」と約束させた夫が退社を認めたワケ

ワンピースを作ってくれる縫製工場を探すため、昼休みは会社を離れて工場に電話し続けた。工場はロットの小さいベンチャー企業からの連絡には冷たく、メールは基本的に無視され、電話をしてみても説明が終わらぬままに「うちはそういうのやってないから」とガチャ切りされることも少なくなかった。

200件もの工場に断られ、打ちひしがれていた中川さんは、たまたま家族と訪れた飲食店で奇跡を起こす。その店の店長に「縫製工場が見つからない」と話したところ、衣料品のOEM(他社ブランドを製造すること)メーカーに勤める知り合いを紹介してくれることになったのだ。そのおかげで条件に合う縫製工場が見つかり、ようやく事業化のめどが立った。

そうして、日中は職場、家庭ではワンオペ育児。午後9時に子どもと一緒に床に就き、夜中の1時に起きて服作り――。そんな生活は退社を決めるまで1年半続いた。

副業に限界を感じ、ついに独立を決意

転機は、百貨店からのオファーだった。

あるとき、百貨店の外商向けのマタニティ売り場で販売しないかという声がかかった。週末に店頭に立つだけならかろうじてできるが、百貨店に服を売るとなれば、在庫も作っておかなければならないし、品質検査にも時間を取られる。百貨店の仕事を受けないという手もあったが、面白そうだと思う気持ちを抑えきれなかった。

このまま会社員を続けることは現実的に無理だと思い始めていた。ただ、夫と交わした「会社を辞めない」という約束を破ることになることには心が痛んだ。

そんなころ、newRが展示会に参加する機会があり、たまたま夫が一時帰国していたのでブースの受付を手伝ってもらうことになった。妻の事業についてよく知らなかった彼は、そこに立っているだけで次々に商談の依頼があることに驚く。妻の状況を把握したことで、ついに夫は退社することを受け入れてくれた。