象徴的だったグローバルダイニングの訴訟

そうした「柔」と「剛」二段構えの政策が顕著にあらわれたのが、2020年の末ごろからやってきた新型コロナウィルスの第3波である。

太田肇『同調圧力の正体』(PHP新書)
太田肇『同調圧力の正体』(PHP新書)

いわゆる「自粛疲れ」した国民や、利益をあげなければ生き残れない飲食店の経営者は、緊急事態宣言を出しても以前のように自粛しなくなった。そこで政府は方針を転換して特別措置法と感染症法を改正し、正当な理由なく営業時間短縮や休業の命令に従わない店舗や、入院を拒む感染者には過料という罰則を科すことができるようにした。

行政としては二段構えの政策をなんとしても維持したい。そのため「衣」を破ろうとする者には「鎧」があることをみせつける必要がある。

二度目の緊急事態宣言が解除された直後の2021年3月、飲食店グループのグローバルダイニングが時短命令を出した東京都を相手に起こした損害賠償請求の訴訟は、それを強く印象づけるものだった。ほとんどの飲食店が渋々営業を自粛するか、「違反」しても行政が目こぼしできる程度にとどめていたのに対し、同社の経営者は時短営業に従わないことを自ら公表し、自粛依存の政策を真っ向から批判した。

これは弱腰どころか強力な体制なのだ

店舗数や発言力などからみても、その社会的影響力は無視できないほど大きい。したがって行政の立場からすると「違反」を放置したら自粛している店舗に示しがつかなくなり、営業自粛の要請という手段が使えなくなる恐れがある。そのため同社に対しては、時短命令という厳しい措置に踏み切らざるをえなかったのだと推察される。

会社や役所の中でも内部告発をしたり、職場の慣行を公然と無視したりする者に対してとりわけ厳しい態度をとるのは、そうしなければ「衣」に当たる部分、すなわち共同体の同調圧力によって得られるメリットを失いかねないからだ。

要するに、共同体の圧力による自発的な協力要請と、公式組織の力による強制という二段構えの手段を備えた日本式の共同体型組織は、最初から強制に頼る欧米式の組織に比べて一見すると弱腰なようだが、実はより強力だということができる。だからこそ組織は、なんとしてもその体制を守ろうとするのである。

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