アルツハイマー病については長年、製薬業界が何十億ドルもの研究費用をかけて開発に取り組んできたものの、成功には至らなかった。今回FDAが新薬を承認したことで、過去に複数の製薬会社が棚上げにした同様の治療薬の開発に、再び活発な投資が行われることになる可能性が高い。
新薬は生きた細胞からつくられており、診療所や病院で点滴投与を行わなければならない。最も一般的な副作用は脳の炎症だが、多くの場合はそれによって症状や長期的な問題が引き起こされることはないと臨床試験で示された。
FDAによる今回の決定を受けて、治療困難な症状の治療を評価する上での基準をめぐる、長年の議論が再燃している。アルツハイマー病の患者やその家族を代表する複数の組織は、新たな治療法はどのようなものであれ(たとえ治療効果がわずかでも)承認されるべきだと言っている。だが多くの専門家は、今回の新薬承認は危険な前例をつくり、効果が疑わしい治療にも扉を開くことにつながりかねないと警告している。
2020年11月には、FDAの外部の専門家委員会が、今回の新薬の有効性について懐疑的な見方を示していた。同委員会は、バイオジェンが提出した一つの臨床試験の複数のデータについて、それが薬の有効性を示しているかどうかという問いに反対票を投じた。
臨床試験もいったん中止
バイオジェンとエーザイは、2019年にアデュカヌマブに関する2つの臨床試験を中止していた。アルツハイマー病患者の認知機能や身体機能の低下を遅らせるという目標を達成できる可能性が低いと判断したためだ。
だがその数カ月後、両社は一転、臨床試験のひとつについて新たに分析を行ったところ、高容量を投与した場合には効果が認められ、FDAからも承認申請が可能だとの助言を受けたと発表した。両社の研究者たちは、アデュカヌマブに有効性が認められないという当初の判断は、一部の患者が、アルツハイマー病の進行を遅らせるのに十分な量の薬剤投与を受けていなかったことが理由だったと説明した。
だが投与量の変更と両社による事後分析で、臨床試験の結果の解釈が難しくなり、FDAの外部委員会を含む多くの専門家の疑念を招くことになっている。