※本稿は、田中道昭『世界最先端8社の大戦略 「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代』(日経BP)の一部を再編集したものです。
エコシステム全体の覇権を奪う戦いを仕掛けてくる
一連の報道で明らかになったのは、アップルカーとは単なるEV、単なる自動運転車ではなく、実際には次世代自動車の4つの潮流である「CASE」全体を推進するものであろう、ということです。すなわち、Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric。スマート化、自動運転、シェア化・サービス化、電動化です。
そしておそらくは、単に「クルマ」を推進するものでもなく、次世代自動車産業におけるプラットフォームであり、エコシステム全体の覇権を奪おうとする戦いを、これからアップルは仕掛けてくるでしょう。
これは、アップルがスマホの世界で実現してきたことでもあります。「ものづくり」に強いこだわりを持つアップルですが、デバイスを作るだけに終わらず、OS、アプリ、サービスといったエコシステム全体で勝負をしかけてくるのが常であり、スマホはその代表的な事例です。
これに対し、NECや東芝、富士通、ソニーなど日本の携帯電話メーカーはデバイスメーカーとして戦いましたが、「iPhoneは競合ではない」と油断している間に、完全に市場を掌握されてしまいました。
アップルカーは3年以内にローンチされるだろう
同じことが今、自動車業界に起ころうとしています。アップルが自動車業界をデジタル化し、破壊するということです。
「アップルカー」はおそらく3年以内にローンチされることでしょう。そのとき既存の自動車メーカーはどうするのか。私は『2022年の次世代自動車産業』において、次世代自動車産業における「10の選択肢」をまとめましたが(図表1)、日本の自動車メーカーに残されている道は多くはありません。ハードとしての車を作るだけのポジションに成り下がるのか。それともアップル同様にプラットフォームやエコシステムを支配するポジションをつかみ取るのか。
強い危機感を持ったトヨタは明白に「OS、プラットフォーム、エコシステムを支配する」道を目指していますが、残念ながら、ハードとしての車を提供するだけのプレイヤーも続出するでしょう。その姿はハードとしてのスマホのみを供給するプレイヤーと重なります。