世界的に平均身長はどんどん高くなっている

さて、現代にいたるまでに人間の身長がどのくらい伸びてきたのか、また国によってどのくらいの差があるのかに興味があるみなさんに、成長に関して体系的に実施された研究結果のなかから、最善のものを紹介しよう。

平均身長がどんどん高くなっていることを示す記録がしっかりと残されているのだ。身体の成長が遅れ、小児の低身長などにつながる発育不良は、多くの貧しい国々ではいまだによく見られるものの、世界的に見ると減少傾向にある。

1990年には約40%だったのに、2020年には22%へと減少しているが、これはおそらく、中国の状況が急速に改善したのがおもな要因だろう。いっぽうで、どんどん身長が高くなる傾向がすでに20世紀に世界的に見られるようになっていた。

以前より健康になり、栄養状態がよくなったおかげで、この傾向は加速した。なんといっても、良質な動物性たんぱく質(牛乳、乳製品、肉、卵)を以前よりはるかに多く摂取するようになったのが大きい。

そのうえ、身長が高くなるにつれ、驚くほど多くの恩恵がもたらされることもわかった。たとえば、背が高いからといって一般に平均寿命が長くなるわけではないが、長身の人は心血管疾患に罹患するリスクが低く、認知機能、生涯賃金、社会的地位のすべてが高い。

総資産額の高い企業のCEOほど身長が高い

身長と所得が相関関係にあることは、1915年に初めて立証され、以来、インドの炭坑作業員からスウェーデンの企業のCEO(最高経営責任者)まで、多岐にわたるグループを対象にした調査によって、たびたび裏付けられてきた。

さらに、スウェーデンのCEOたちを対象にした調査によれば、なんと総資産額の高い企業のCEOほど身長が高いそうだ。

全人口を対象とした長期にわたる調査結果に目を向けると、こちらもじつにおもしろい。産業化以前のヨーロッパにおける男性の平均身長は169~171センチメートル、世界平均はおよそ167センチメートルだった。

入手可能な200カ国の膨大な身体測定データによれば、20世紀全体での身長の伸びは、成人女性で平均8.3センチメートル、成人男性で8.8センチメートル。ヨーロッパと北アメリカではどこの国でも身長が伸びているいっぽう、20世紀最大の伸びを記録したのは韓国の女性(20.2センチメートル)で、男性のトップはイランの男性(16.5センチメートル)だ。

バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)
バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)

日本では1900年から、男女とも6~24歳までの詳細なデータが収集されていて、これを見ると、栄養が十分にとれているかどうかが、身長の伸びに影響を及ぼしていることがわかる。1900~40年、10歳男児の平均身長は1年で0.15センチメートル高くなっていたが、戦時中は食料不足のせいで1年で0.6センチメートル低くなっていた。

平均身長がふたたび高くなりはじめたのは、ようやく1949年になってからのことで、世紀後半の伸びは1年当たり平均0.25センチメートルだった。同様に、中国でも身長の伸びは世界最悪の大飢饉ききん(1959~61年)のあいだは止まっていたが、それでも主要都市の男性の身長は、20世紀後半には1年で平均1.3センチメートル伸びていた。

それとは対照的に、同時期のインドとナイジェリアではわずかな伸びにとどまり、エチオピアではまったく伸びず、バングラデシュでは平均身長がわずかに低くなっていた。