難民条約違反の可能性も
入管法改正案の議論の中で、野党や難民支援団体、弁護士などから、人道的配慮に欠けるとして問題視されたのが、送還のルールだ。今までの「難民認定の手続き中は送還しない」とする規定に対し、今回の法案では、3回目以降の申請者については原則としてこのルールの適用外にするとされた。
さらに、送還に従わない人は刑事罰の対象になり、帰国できない人は、1年間の懲役または20万円以下の罰金となる可能性がある。
これらは、日本も加盟している、難民保護を定めた「難民条約」に反するおそれがある。難民条約には、「難民を彼らの生命や自由が脅威にさらされるおそれのある国へ強制的に追放したり、帰還させてはならない(難民条約第33条ノン・ルフルマンの原則)」「庇護申請国へ不正入国しまた不法にいることを理由として、難民を罰してはいけない(難民条約第31条)」と明記されている。
国連高等弁務官事務所も法案に対し「重大な懸念」を表明していた。
「『難民申請を3回繰り返すのは制度の乱用だ』と政府は言います。ただ、1回目であれ2回目であれ3回目であれ、日本の難民認定率は0パーセントに近い。その状況で、『3回目だから乱用です。国に帰ってください』ということにはできません」と、入管法改正に反対していた弁護士の一人、高橋済弁護士は、5月に開かれた記者会見で語った。
見知らぬ国で、一人で審査官と向き合う難しさ
また日本では、難民申請する際、一次審査に弁護士などの代理人が同席できない。2019年時点のデータによると、オーストラリア、フランス、イギリスなどの主要な国では、一次審査時の代理人の同伴が可能だ。
日本にたどりついたばかりの外国人が、たった一人で審査官と向き合い、母国に帰れない理由を客観的証拠に基づいて証明するのは、ハードルが高すぎはしないだろうか。そもそも、どれだけの難民が、「帰国すれば命の危険がある」ことを証明する証拠を携えて母国を脱出できるのだろう。
もちろん、不法滞在をしている外国人を取り締まることは必要だし、入管が大切な役割を担っているのも事実だ。ただ、難民問題の専門家は、諸外国のように、入国審査で厳しく取り締まる役割を持つ入管と、難民を保護する機関は別であるべきだと指摘する。つまり、難民の審査は、専門性、独立性のある別の政府機関が行うべきではないかという。