日用品メーカー・エステーの商品には除菌効果のあるものが多い。新型コロナウイルスの蔓延は除菌をアピールするチャンスだったが、クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏は、テレビCMでその強みをあえて封じたという。一体なぜなのか――。

※本稿は、鹿毛康司『「心」が分かるとモノが売れる』(日経BP社)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/adisa
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「除菌」を強く打ち出せばもうかるが…

コロナ禍はさまざまな企業活動に影響を及ぼしています。私がクリエイティブディレクターを務めるエステーも例外ではありません。世界的な感染拡大の影響で、2020年2月に海外から調達予定だった新商品の原材料が手に入らなくなり、マーケティング戦略を大きく変更せざるを得なくなりました。

テレビCMをはじめとする広告枠は既に買い付けており、撮影日も確定しています。当初予定していた新商品に代わって、どの商材をプロモーションすべきか。すみやかに、決断しなくてはなりません。

エステーの商品の多くは除菌効果があります。コロナ禍で「除菌」を強く打ち出せば、売れる可能性が高いでしょう。しかし、それでは短期的な収益は得られても、中長期的に見ると、お客様からの信用を失うリスクをはらんでいます。私自身もそうですが、有事のときほど人の心は敏感になります。

新型コロナウイルスに便乗してもうけようとしている気配を感じたら、お客様の心は確実に離れていきます。「法人」という言葉にあるように、企業も人格を持っています。単に、商品の価値やベネフィット(便益)を情報として届けるだけでは「人としてどうなのか」と思われることは避けられない。こういうときだからこそ、人に寄り添った、広告クリエイティブが求められるのです。

「このタイミングだからこそ良いCMを」

私が決断を迫られていた2020年2月の時点では、国内の感染者数こそまだ少なかったものの、マスクの価格は高騰し、事態が深刻化する予兆が見え隠れしていました。私自身も在宅勤務が続く中、頭をグッと抑え込まれるような感覚を何度となく経験しています。

不安になって医療機関で受診すると「ストレスによるもの」と診断されました。自分では前向きに、陽気にやっているつもりでしたが、知らず知らずのうちに気が滅入っていたのだと、突き付けられたような思いがありました。

そこで「空気を変えよう」というメッセージをCM作りの軸に据えようと思い立ちます。この空気を変えようは、エステーの主力商品である消臭剤「消臭力」のコアな価値であると同時に、今まさに世の中に広がりつつある閉塞的な空気を払拭しようというメッセージにもつながるのではないかと考えたのです。エステーの鈴木貴子社長に相談すると、すぐさま「こういうタイミングだからこそ良いコマーシャルを作りましょう」と決断してくれました。