安倍晋三前首相「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯」

実際にシステム上にエラーやミスが生じるかどうかを確認して記事で問題点を指摘することは、メディアの役目である。記事には裏付け取材が必要だ。毎日新聞と朝日新聞出版の記者はすぐに予約を取り消している。一般の人の予約の妨害には当たらないはずだ。それを「悪質な行為」と一方的に批判するのは異常だ。

岸防衛相だけではない。18日には安倍晋三前首相が「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える」とツイッターに投稿している。首相経験者とはとても思えない軽薄な発言だ。

岸防衛相は安倍前首相の実弟である。母親の実家である岸家の養子となったために姓は違うが2人は血がつながっている。人相もよく似ている。2人ともアメリカとの安全保障を強硬に推し進め、安保闘争の標的となったあの岸信介元首相の孫である。

安倍、岸兄弟は、毎日新聞や朝日新聞など、いわゆる「リベラル」と呼ばれる媒体をたびたび批判している。自身の政治信条と相容れないのだろう。それは理解するが、だからといって気に入らないメディアの発信を封じ込もうとする態度は稚拙だ。権力者がそんな態度を続ければ、民主主義はあっという間に滅んでしまう。為政者は、多様な意見に耳を傾ける度量の広さを見せてほしい。

衆院本会議場で自民党の岸信夫氏(右)と話す安倍晋三首相(当時)
写真=時事通信フォト
衆院本会議場で自民党の岸信夫氏(右)と話す安倍晋三首相(当時)=2015年4月21日午後、東京・国会内

「十分な準備期間がないままの見切り発車となった」と毎日社説

5月18日付の毎日新聞の社説は「大規模接種の予約開始 見切り発車の不備が露呈」との見出しを掲げ、冒頭部分でこう指摘する。

「自治体での接種が進まない中、菅義偉首相が先月末に防衛省に設置を指示した。十分な準備期間がないままの見切り発車となった」
「その結果、初日からシステムの不備が露呈した。自治体が送付した接種券に記載されていない架空の番号を入力しても予約ができてしまうという問題だ」

毎日社説が指摘するように、今回の不備の原因は菅首相の見切り発車にある。菅政権がワクチン接種を急いだ結果、不備が生じたのである。政府は責任を持って不備を解消しなければならない。

毎日社説は指摘する。

「接種の際には、接種券や本人確認書類と照合するため、架空の申込者は接種を受けられないと防衛省は説明している」
「しかし、架空の予約が殺到すれば、対象の高齢者にしわ寄せが及びかねない。大量の予約がキャンセルされ、円滑に接種が進まなくなる恐れもある」

「架空の申込者は接種を受けられない」。これは防衛省の言い訳に過ぎない。防衛省は「架空予約の殺到」や「大量の予約キャンセル」の危険性をどう考えているのか。

さらに毎日社説は「首相は高齢者接種を7月に終えるため『1日100万回接種』との目標を示している。ただ、センターで接種できるのは合計で1日最大1万5000人にすぎない」と指摘し、こう主張する。

「接種の主体はあくまで自治体だ。思うように進まない背景には、予診や接種、副反応への対応にあたる医療従事者を確保する難しさがある。政府は実態を把握し、きめ細かく支援すべきだ」

その通りだ。ワクチン接種の障害を見極めて改善することが肝要である。