一方で、海外での事業展開も睨む。森ビルは早くも93年に中国へ進出。08年には、地上101階、高さ492メートルの垂直の複合都市・上海環球金融中心(ワールドフィナンシャルセンター)を完成させ、運営している。

「すでに多くの国や都市からコンサルティングを請け負っている。街づくりや運営のノウハウとブランドを輸出できる時代になったことは、大きなチャンスだ」

辻は大学で建築と都市計画を専攻し、街づくりがしたいと、森ビルに入った。

「タウンマネジメントを担当しているときには、ずっと街を歩いていました。人の表情を見ていると、いろいろなことがわかる。だから、僕も若い連中に、『とにかく歩け。ずっと席に座っていても、なにも思いつかんぞ』といっています」

入社は85年。森ビルの都市開発の原点ともいえるアークヒルズが竣工する1年前だ。年齢も森会長とはふた回り以上違う。「辻色をどう出しますか」と、意地悪な質問をしてみた。

「森稔という類稀なリーダーに率いられて、既成概念を破る街づくりを進めてきました。今後はそれを組織として進めていく。我々の仕事は50年、100年と続く仕事です。だから、がらっと変わることはない。後々に辻色が出てくるのであればそれでいい」

言葉選びは慎重だが、仕事に深い愛着と誇りを持っている様子がうかがえた。

経営学の名著『ビジョナリーカンパニー』は、カリスマ的指導者の役割は「時を告げる」ことであり、時代を超えて繁栄を続ける会社を築くのは、時を刻む「時計をつくること」であると指摘している。辻の役割は、まさにこの時計をつくり上げることである。

※すべて雑誌掲載当時

(門間新弥=撮影)