森ビル社長 辻 慎吾

1960年、広島県生まれ。50歳。85年横浜国立大学大学院工学研究科修了、同社入社。2001年タウンマネジメント準備室担当部長、06年取締役、09年副社長。6月より現職。

1.出身高校:神奈川県立光陵高校
2.座右の書、好きな本:安岡正篤『一日一言』
3.尊敬する歴史上の人物:坂本龍馬
4.座右の銘、好きな言葉:オープンマインド
5.健康法・ストレス解消法:美味しい食事とお酒、街歩き

東京の六本木ヒルズは森ビルの顔である。新社長の辻慎吾は、その開発と成長を手掛けた。オーナー家以外で初めての社長登場だが、気負いは感じられない。それは十分な準備期間があったからかもしれない。森稔社長(現会長)に言い渡されたのは、ちょうど2年前だった。

「実質的に創業者であり、オーナーであり、カリスマ経営者が引っ張ってきた経営をどうつないでいけるのか。就任する前までずっとそのことを考えてきた」

会長の森は後継者の条件として3点をあげている。街づくりのビジョンを継承し、深化・発展させること。クリエーティブなものを仕上げる遂行能力を持つこと。そして高いマネジメント能力だ。

森は記者会見で「辻君は、六本木ヒルズの再開発で400人もの権利者の同意を得る権利変換計画をまとめ、さらにタウンマネジメントという、まったく新しいビジネスモデルを確立した」と述べ、3つの条件を満たしていることを示した。

辻が自らに課した課題も3つある。1つが森ビルの思想を発展させること。2つ目が「2つの意味」でのグローバル展開。3つ目が都市を舞台とした新しいビジネスの創造と組織づくりである。

森ビルの街づくりの思想は、「ヴァーティカル・ガーデン・シティ(立体緑園都市)」に表現されている。細分化された土地をまとめ、建物を集約・高層化することで、地上に豊かなオープンスペースを創出する。「職・住・遊・学・商」などの多彩な都市機能を有機的に集積したコンパクトシティである。辻は六本木ヒルズで、この思想を現実化してみせた。

グローバル化の「2つの意味」とは国内と海外を指す。いまや時代は「都市間競争」に突入している。シンガポール、香港、上海などの台頭で「TOKYO」の競争力は劣後しつつある。「国としても危機感を持っている。それは我々にとっては逆にチャンス。東京を、そして日本を再び元気にすることが森ビルの社会的使命」と言い切る。