デジタル端末で「かけっこ」が速くなるための科学的な探究

東大と並ぶ最難関の京大を蹴って、早大ラグビー部主将を務め、大手商社マンを経てアメリカで最新理論を学んだ山羽氏が構築したビジネスとは具体的にはどんなものか。

同社は2020年、経済産業省が推進した「未来の教室」の事業者に選ばれ、開発した教育コンテンツが同省のライブラリーでも公開されている。その事業例をいくつか紹介しよう。

事業例① かけっこ

山羽氏の会社では不定期に小学生を対象にしたかけっこセミナーを実施している。まず、動画とセンサーを使って疾走する児童を録画し、データを取る。走る速度や、足で地面を蹴ってから着地するまでの時間などは端末上で見ることができる。専門家による体の動かし方に関する解説もある。結果、「何の数値」を改善すればより速く走れるのか、子供たちは懸命に考えるようになるのだ。

右は国際数学オリンピックで優勝したる中島さち子さん(写真提供=STEAM Sports Laboratory)
右は国際数学オリンピックで優勝したる中島さち子さん(写真提供=STEAM Sports Laboratory)

「動画でその場で指導できます。走る技術は、国立の鹿屋体育大学で学んだコーチが指導します。データ分析(スティーム)的なことは国際数学オリンピックで優勝経験のある中島さち子さんが子供たちに教えます」(山羽氏)

中島さんは各自の30mの速度を改めて「距離÷時間」で児童に計算させて、速く走るために必要な蹴る力とダッシュ力について、また作用反作用の法則も関わっていることなどを、絵図を用いて説明する。

かけっこはあらゆるスポーツの基本だ。運動会の花形種目であり、体力測定にも50m走がある。わが子が、かけっこがより速くなるよう望む保護者も多いそうだ。

「動画やデータを見ながら子供たちも必死で取り組みます。走る時にお手本通りのきれいなフォームが誰にでも合うかというとそうでもないんです。それぞれにトライアルアンドエラーをしながら、自分に合った速く走れる方法を本人が見つけていくプロセスが学びになると思います」(山羽氏)

もともと速い子は運動会のリレーの選手に選ばれるためにはどう改善すべきか考える。それほど速くない子も、自己記録を更新するために工夫する。「端末と数字」がそうした児童の成長を後押ししてくれるわけだ。

事業例② タグラグビー

タグラグビーも「スティーム教育」にはうってつけだ。

タグラグビーは、ラグビーからタックルなどの接触プレーをなくしたボールゲーム。選手(両チーム各4~5人)は、腰に「タグ(ビニール製のリボン)」を着ける。相手の陣地(ゴールライン)に楕円形のボールを持って走り込み、地面に置くことでトライ(得点)できる。

相手選手の体やボールに触れることはできない。ボールを持った選手が腰につけたタグをとられたら「タックルされた」ということで、ボールを味方の他選手にパスしなければならない。タグの奪取4回で攻撃権が相手チームに変わり、4回のうちに何点トライが取れるかを競う。ゲームに勝利するためには個人技よりもチームプレーが重要だ。

同じボールゲームであるサッカーもバスケットボールもドリブルしなければならず、その上達にはかなりの時間を要する。だが、タグラグビーはボールをもって走るという簡単な動作で取り組みやすい。

「うまい子、下手な子の差が出ないんです。『体育に積極的ではない子も参加しやすい』と学校側にも好評です。動画やボードの上で戦術を練る際には、プログラミング理論なども使ってどうすれば勝利できるかチーム全員で考える。体育と数学を一緒にやっているイメージで、実際に体を動かすことと学問的な部分をつなげる。数学の先生が教えることもあります」(山羽氏)