日本人の食生活は「グルメ番組」に大きな影響を受けている。生活史研究家の阿古真理氏は「『大食い選手権』や『料理の鉄人』といったグルメ番組には、日本の“台所タブー”を打ち破ったという大きな功績がある」という――。

※本稿は、阿古真理『日本外食全史』(亜紀書房)の一部を再編集したものです。

旭日小綬章の受章が決まり、記者会見する服部栄養専門学校校長の服部幸應さん=2020年10月29日、東京都渋谷区
写真=時事通信フォト
旭日小綬章の受章が決まり、記者会見する服部栄養専門学校校長の服部幸應さん=2020年10月29日、東京都渋谷区

日本人のグルメ化を進めたテレビ番組

日本人のグルメ化を進めるうえで、最も影響力があったメディアはやはり、100万人単位の人が観るテレビだろう。インターネットは台頭してからの日が浅いし、情報の質にはバラつきが大きいからだ。食をテーマにした情報番組には、これまでどんなものがあったのだろううか。

最初に登場したグルメ番組は、1975(昭和50)年に始まった『料理天国』(TBS系)である。芳村真理、西川きよしが司会。辻調理師専門学校の講師が料理をつくり、二人が食べる番組で、世界各国の料理を紹介した。サントリーの一社提供で、1992(平成4)年まで放送された。

社会的影響力を持った最初の番組は、1992年に放送が始まった『TVチャンピオン』(テレビ東京系)の「大食い選手権」シリーズである。こちらの番組は『大食い王決定戦』とタイトルを変えて現在も放送が継続している。料理をバラエティ化しヒットさせるにはやはり、戦いを描くことが必要であるらしい。

それはどんな番組なのか。『TVチャンピオン 大食い選手権』(テレビ東京番組制作スタッフ編、双葉社、2002年)で、歴史をたどってみよう。

記念すべき第1回の放送は1992(平成四)年4月16日。東京・高円寺の「桃太郎すし」本店で予選が開かれ、30分間で食べるすしの皿数を競う。第1ラウンドは代々木「長寿庵」で天丼・親子丼・カツ丼の大盛りを食べる。第2ラウンドは、目黒「ステーキハウス リベラ」で3ポンドのステーキを食べ切る。第3ラウンドは、小岩「丸幸」でギョウザ100個を食べる。いずれも制限時間は30分。

決勝ラウンドは、六本木「台南但仔麺」で「一口ラーメン」の「ターミィ但仔麺」を食べる杯数を40分間で競う。チャンピオンは20歳の伊藤織恵だった。