感染が悪化していた昨年春の時点で、コロナ禍で亡くなるアメリカ人は累計30万人と予測されていた。ところが実際には2倍近くの60万人に達しようとしている。これも早すぎた経済再開が理由だったという見方が広がっているのだ。
ワシントンポストは「今こそ損切りを」
5日付ワシントンポストに掲載されたスポーツコラムニスト、サリー・ジェンキンズの意見はもっと手厳しい。
「オリンピックが日本の利益にとって脅威なら、日本のリーダーは日本を踏み台にしているIOC(国際オリンピック委員会)に対しはっきりと『搾取するなら他でやってくれ』と言うべきだ。中止は痛いだろうが、同時に治癒につながる」
さらに「日本人の72%が反対しているオリンピックを、なぜIOCは何が何でも決行すると言えるのか? それは開催国にとって非常に不利な契約だからだ」とこれまでの開催国が被った経済的負担を指摘し、記事はこう続く。
「日本のリーダーは今損切りをすべきだ。キャンセルは筋が通らないと言われるかもしれないが、お金がかかりすぎるオリンピックはもともと筋が通らない上に、世界的なパンデミックの最中で行うのはさらに筋が通らない。もしキャンセルされたIOCが訴えでもしたら、逆にIOCの信頼に関わってくるだろう。日本の立場は思っているほど弱くない」と、かなり強い調子で中止を呼びかけている。
「経済か人命か」決断の時は迫っている
どの報道も突きつけているのは、オリンピックは人の命を犠牲にして、国民が我慢してまでやるほどのものではないのに、「経済優先か人命優先か」という、いまだに煮え切らない日本のトップの決断だ。
これはオリンピックだけの問題ではない。グローバル化が進む中で、途上国の国民や少数民族が搾取に遭い、その犠牲の上に一部の先進国が豊かな経済を享受するという構図は世界のあらゆる場所で長年放置されてきた。そしてその不満が、コロナ禍をきっかけに噴き出している。
その怒りは今、オリンピックにも向けられている。「一体誰のためのオリンピックなのか」と、世界の平和とスポーツの祭典のはずが利権にまみれ、その一方で巨大なマネーゲームの犠牲になる人や国が少なくないからだ。東京オリンピックの行方は、今後のオリンピックのあり方自体を考え直すきっかけにもなりつつある。