俳優やお笑い芸人が参加するゲームで、日本に浸透していく
ドウユウはeスポーツを中心に中国で月間1億5000万人が視聴する同国最大のライブ動画配信サービスを手掛ける。コロナ禍で劇場が閉鎖される中で、出演機会が減った俳優やお笑い芸人がゲームに参加し、その模様をを配信して「投げ銭」などを実施するなど、日本での浸透を深めている。テンセントとの提携もドウユウとの協業を通じて培った関係から三井物産が応じたという。三井物産としても中国の12億人が登録するSNS「微信(ウィーチャット)」にアクセスできるのは魅力だ。
三井物産との提携はゲーム事業をきっかけに進出先の企業と提携や出資を繰り返して現地に浸透していくテンセントの「帝国」拡大の典型的なやり方だ。
テンセントは「ウィーチャット」を核に、ニュース、音楽配信、決済の「ウィーチャットペイ」を押さえ、基盤となるインフラとしてクラウドサービスを持っている。ウィーチャットのアプリ上で動いて機能を強化できるミニアプリは17年に開始。京東集団(JDドットコム)、出前アプリの美団にも出資し、電子取引機能を強化する一方、産業用途でも車載基本ソフト(OS)開発、人工知能(AI)、スマートシティーと連動したシステム開発、配車や地図サービスなど出資・提携を軸にさまざまな分野に拡大している。
決済やSNS、飲食や配車などあらゆるサービスをアプリ1つにまとめる「スーパーアプリ化」の戦略はアジアを中心に広がっている。特に日本では中核企業への食い込みが目立つ。
東電の抱える個人や企業の情報は筒抜けになる恐れ
三井物産以外にも東京電力とも「ウィーチャット」で電気やガスの申し込みや料金の決済などができるサービスで提携した。東電の小売子会社である東電EP傘下で割安に電気を販売している新電力PinTを通じて中国人向けを対象としているが「契約者を装ってシステムに入り込めば、東電の抱える個人や企業の情報は筒抜けになる」(経産省幹部)恐れがある。
三井物産や東電との提携も「訪日客への激減や電力自由化で苦戦する両社の懐にうまく入り込んで事業を拡大していくやり方はさすがだ」(同)と指摘する。そして、ついには通信大手入りを目指す楽天にまで入り込んだ。
中国のスパイ活動といえば、もっぱら宇宙航空研究開発機構(JAXA)や三菱電機、NEC、神戸製鋼所など防衛や航空関連企業を中心にした「軍事面」での動きに関心が集まりがちだ。その背後には中国のハッカー集団「Tick」の存在があるといわれたり、JAXAにサイバー攻撃を仕掛けたハッカーは中国共産党員ともいわれている。Tickには日本などを標的にした中国軍のサイバー攻撃専門組織「61419部隊」が指示を出していた可能性が高いとされ、そこには軍と共産党という中国の最高権力を担う人物が背後に潜んでいるとされる。こうした動きは警視庁公安部もつかんでいる。
しかし、こうした軍や共産党が絡む軍事面のスパイ活動という伝統的なやり口に加え、最近ではSNSを使ってさまざまな情報を「入手」する手口も増えている。