「純投資というテンセントの説明は完全には解せない」

菅政権発足後初の日米首脳会談を控えていた首相官邸も焦った。テンセント子会社による出資は「アメリカから疑問をなげかけられる」との見方が広がり、首相官邸で開いた首相補佐官による会議では、首相の訪米前の懸案として議題に上げ、対応策を練った。

結局、日本政府は外為法にのっとり、日米両政府で楽天グループを共同で監視するとのことでその場を収めたが、政府からの監視が強まるとの報道を受けた楽天の株価は、4月21日、前日比55円(4.1%)安の1278円まで売り込まれた。

日米政府が中国企業の自国への投資について監視を強める中で、テンセントがいとも簡単に楽天に出資できたのはテンセントの投資目的が「純投資」とされていたからだ。

テンセントシーフロントタワー
写真=iStock.com/Yijing Liu
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日本政府は改正外為法の制定にあたり「日本への海外からの投資の流れを阻害しないようにする」(経済産業省幹部)との観点から幅広い免除基準を設けた。「非公開の技術情報にアクセスしない」「自ら役員に就任しない」などの条件を満たす場合は、事前届け出を免除することにした。

免除基準に該当するかどうかは自己申告で、順守を誓約して事後報告すればよい。「純投資というテンセントの説明は完全には解せない」(日本政府関係者)との声はくすぶるが、制度上は認めざるをえない。

「テンセントは表向きゲーム配信企業という形で入っていく」

米国では財務省や国防総省、エネルギー省から専門人材を集めた常設の対米外国投資委員会(CFIUS)がある。脅威が大きい企業には事後的に株式の売却命令を出すなど強権を振るう。非公式の事前相談も定着しており、一定規模以上の外資出資のほとんどはCFIUSとの調整が必要となる。投資の「日本離れ」を懸念するばかりに、強権を振るうのに二の足を踏む日本とは対照的だ。

テンセントの「長い手」は楽天だけではない。幅広い事業を手がける大手商社の三井物産や、日本のエネルギーの根幹を担う東京電力とも提携している。

NTTグループの幹部は「テンセントは表向きゲーム配信企業という形で相手国に入っていく。地元企業にうまく入り込んで中国色を消すのがうまい」という。三井物産と最初の関係を持ったのもテンセントが出資する中国の動画配信サービスを手掛ける「闘魚(ドウユウ)」を運営する武漢闘魚網絡科技を通じてだ。