このように、「注意」は、「ワーキングメモリ」を通してわれわれが普段当たり前に行っている行動に使われ、それを支えています。このため、脳が使える「注意」は慢性的に不足しています。「気をつけよう!」と言って、「注意」を新たに向けてミスをなくそうとする前に、「注意」が足りなくなって多くのミスが生まれている現実を見つめましょう。

たとえば、「あ、メールを出すのを忘れていた!」という「うっかり忘れ」のミス。「メールしなければ……」と、そのことに「注意」を向けてつかんでいるうちは、ワーキングメモリの中にあり、あなたは「メールを出さなければならないこと」を覚えています。

しかし、別の用件が急に入ってきたり、だれかに話しかけられたりして、ほかのことに「注意」を向ける必要が生まれると、もともとの用件から「注意」が離れてしまって「忘れていた!」というミスが起こるのです。

SNS、リモートワーク…脳の「注意」を奪われミスが起こる

特に今の私たちを取り巻く環境のように、メールやSNSなどで様々な連絡が入ってきたり、様々な仕事を同時並行で行うマルチタスクが求められる環境では、様々なことに「注意」は奪われ、ワーキングメモリの余裕は少なくなります。

また、リモートワークになり、自宅で仕事をしていると、さらに余裕がなくなる危険があります。「最近掃除してないな」とか、「今はテレビで何をやっているんだろう」などと、プライベートなことに「注意」が奪われ、仕事に使える「注意」が減ってしまうからです。

そのほか、様々なミスをよく見ると、そこには「注意」が必ずといっていいほど絡んでいます。たとえば、「え? そういうことだったんですか!」と後で気づく勘違いのミス。

これも聞いている人が、話を聞きながら「○○かあ、あのことだなあ」と推測・想像したことにグッと「注意」が向いてハマりこんでしまい、肝心の相手の話に「注意」が向かなくなったため、起こったミスと言えます。

在宅勤務中に頭を抱える男性
写真=iStock.com/kazuma seki
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また、「あれ? なぜあんな判断をしたのだろう?」と後で悔やむような判断ミスも、「こうに違いない」といった固定観念に「注意」が奪われたり、都合のいいところにだけ「注意」が向いていて、他の可能性やデメリットに「注意」が向かなかったことによるミスと言えるでしょう。

このように「ミス」の原因を探っていくと、そのほとんどが脳の「注意」に行き着きます。このため、ミスをなくすためには、限りある「注意」のムダ遣いをなくして余裕を生み出すこと、そして、自分の思い込みなどにハマることなく、「注意」を向けるべきところに向けていくことが必要なのです。

まずは「注意」のムダ遣いをなくそう

では、ミスをなくすために具体的にどういう対策を取っていけばいいのでしょう?

まず、これまでのミスの経験から、どこに「注意」を向けるとミスがなくなるか、できるだけ具体的に絞り込んで明確にすることで、限りある「注意」を有効に活用できるようになります。