世界的に半導体需要が増す中…

火災発生直後、自動車産業の関係者などが東日本大震災後の状況を思い起こしたはずだ。当時、那珂工場は被災し生産が停止した。その結果、世界の自動車生産が減少した。

3月20日にルネサスは、火災によって純水の供給や空調、さらには製造装置に被害が出たこと、火災によってN3棟1階のクリーンルームの面積の約5%が焼損したことを発表した。翌21日に、同社は1カ月以内の生産再開を目指すと発表した。なお、火災により23台の半導体製造装置が焼損した。

火災のイメージ
写真=iStock.com/chonticha wat
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1カ月以内での生産再開は、ルネサスの目標というよりも、わが国産業界全体からの要請だった。昨年秋口以降、世界全体で半導体の不足が深刻化している。その状況下、わが国自動車メーカーは徹底したリスク管理によって半導体を確保して減産を限定的に食い止めつつ、トヨタなどが米国と中国で需要を獲得している。

各業界の人材が起こした奇跡

わが国経済全体で考えた場合、火災によってマイコンなどの供給が一時的に減少したとしても、その状況が長期化する展開は何としても回避しなければならない。それは、完成車メーカーや自動車部品メーカー、さらには足許で内外需を取り込んでいる工作機械メーカーの業績だけでなく、経済全体での所得・雇用に無視できない影響を与える。

その危機感が、産業界が協力してN3棟の復旧に取り組む原動力になった。通常、半導体の生産ラインが止まると、再開には数カ月以上の時間を要する。目標期間内にN3棟の生産が再開されたのは、柴田社長が発言した通り「奇跡的」だった。

生産再開を支えたのが、わが国の“モノづくりの現場力”だ。自動車や半導体製造装置、設備保守など各業界の人材が、感染対策を徹底しつつ復旧に取り組んだ。地域別にみると、自動車産業が成長してきた中京工業地帯などから那珂工場へ多くの人員が派遣された。

人数は多い日で1600人に達した。それに加えて、半導体製造装置など精密機械メーカーがわが国に集積していることも、迅速な生産再開を支えた。東日本大震災後の那珂工場復旧に取り組んだ各企業の経験も発揮された。