「ちょっと血圧が高め」の今が運命の分かれ道
病院や健診で「血圧が高め」と指摘されたら、まず考えなければならないのは腎臓のことです。血圧が高くてもどこも痛くも痒くもないからと油断してはなりません。
というのも、「ちょっと血圧が高め」くらいの人でも、放置すれば腎臓が悪くなることが報告されているからです。
2016年、中国の北京大学で、過去に世界中で行われた血圧に関する7つの研究が解析されました。その論文によると、上(収縮期)の血圧が120~139、下(拡張期)の血圧が80~89の「高値血圧」レベルでも、慢性腎臓病の発症リスクが1.28倍高くなることがわかったのです。
しかも、この傾向は人種と性別によって差があり、東アジア人のとくに女性に強く見られました。ということは、日本人の女性は、軽度であっても高血圧を治療したほうがいいと考えられます。
また、同じく2016年のイタリア・ナポリ大学の研究で、高血圧によってすでに罹っている慢性腎臓病が悪化する危険性について発表されています。それによると、正常高値血圧の人では慢性腎臓病の悪化リスクが1.19倍に上がることがわかりました。また、上の血圧が140以上、下の血圧が90以上の高血圧症だと、悪化リスクは1.76倍となりました(American Journal of Kidney Diseases 2016;67:89-97)。
さらに、腎臓病でない人4万3300人に対して行った調査で、上の血圧が120を超えると慢性腎臓病が増えることがわかっています。この調査では、上の血圧が10上がるごとに慢性腎臓病のリスクが6%上昇することも明らかになりました。とくに、上の血圧(収縮期血圧)には厳重な注意が必要ということのようです(American Society of Nephrology 2011;6:2605-2611)。
慢性腎臓病は、進行してしまうと治療が難しくなり、透析が避けられなくなります。その慢性腎臓病の進行に血圧の上昇が大きく影響することが明確になっているのですから、「ちょっと高めくらいだから様子を見よう」と放置するのは賢明ではありません。「ちょっと高めの今のうちにわかってラッキーだった」と対処する道を選んでください。
血糖値コントロールより大事な糖尿病患者の腎症回避
人工透析を必要とする患者さんのうち、実は44%が糖尿病の合併症によるものです。だからこそ私は、糖尿病専門医として「自分の患者さんを透析にだけはしない」をモットーに治療に臨んできました。
しかし、残念なことに、多くの糖尿病治療の現場で、医師たちは血糖値コントロール(具体的には、ここ1~2カ月の血糖値変化を表すヘモグロビンA1c値を下げること)に注力し、腎臓については適切な手を打てずにいます。
糖尿病で怖いのは、高血糖になることではなく合併症です。合併症には腎症、網膜症、神経障害があり、中でも腎症は命に直結します。しかも、網膜症や神経障害と違い、激増しているのです。