すべての病気はAGEによる「炎症」

それにしても、なぜ慢性腎臓病があらゆる病気を招くのでしょうか。

慢性腎臓病に罹ると、「AGE=終末糖化産物」というとてもタチの悪い老化促進物質が体内で大量に生産され、あちこちに炎症が起きるからです。

AGEは、体中の正常な組織にベタベタとくっついては、その組織を壊していきます。見た目でわかりやすいところでは、肌の組織にくっついてシミやシワをつくります。ほかにも血管や脳、内臓組織など、どこにでもくっついて炎症を起こし、あらゆる深刻な病気の原因となります。

腎臓には、老廃物を濾過ろかするための大事な「膜」があります。この膜は、コーヒーをいれるときに用いるペーパーフィルターのような役割を果たします。ところが、AGEがその膜にくっついて炎症を起こすと、小さな穴が開いてしまいます。その穴から、本来は出てこないはずのタンパク質などの物質が尿にれ出してきてしまうのです。そうして体中に毒素や老廃物が充満することになってしまうのです。

慢性腎臓病もそうですが、心疾患や脳疾患、がんといったほかのほとんどの病気も、「炎症が原因で引き起こされる」というのが最近の考え方となっています。

もっとも炎症自体は、私たちの体にとって重要な免疫反応でもあります。ケガをしたときなど、傷口がんだりれたりと、外から見ても炎症が起きていることが明らかですね。それは、免疫反応が体を守るために戦っている証拠です。しかし、炎症が慢性的に持続するようになると、免疫システムに狂いが生じ、病気を誘発するのです。

AGEは、それ自体でも炎症を引き起こしますが、すでに起きている炎症を悪化させもします。つまり、病気を引き起こすだけでなく、病気の進行を早めてしまうのです。

さらには、腎臓が悪くなると、AGEが加速度的に増えることがわかっています。ということは、慢性腎臓病があれば、ほかの病気の発症率が高まり、かつ悪化もしやすいわけです。

感染症で一番危ない「腎機能の弱い人」

新型コロナウイルスに感染して命を落とした人の中には、各界の著名人も含まれていました。ウイルスは人を選ばないこと、また、治療法が確立されていない新しい感染症には、いくら地位や経済力があっても太刀打ちできないことを、私たちは改めて思い知らされました。

一方で、感染してもなんの症状も出ない人、ごく軽い症状で済む人もたくさんいて、どうやら「重症化リスクの高い人」が存在するらしいこともわかってきました。

新型コロナウイルスに限らず、ほとんどの感染症において、「高齢であること」と「持病があること」は重症化の大きな要因です。

このうち、年齢自体を変えることはできませんが、持病があるかどうかは人それぞれです。実際に、新型コロナウイルスでは、持病があったために40代で亡くなった人もいれば、80代でも無事に生還した人もいました。

持病について、テレビのニュースなどでは、高血圧症や糖尿病が真っ先に挙げられていました。しかし、私は、血圧や血糖値が高いこと自体よりも、それによって腎臓の働きが悪くなっていることこそ、重症化を進めたと考えています。

とくに、慢性腎臓病で人工透析を受けている人は、免疫力が落ちているために、感染症に対してひどく脆弱ぜいじゃくです。それがわかっているから、今回のコロナにあって、透析中の患者さんは相当恐怖心を抱いているはずです。