自粛ムードがなければ起こらなかった事態

背景にはIOCが放送や配信の権利を持たないメディアに対して求めていた「72時間ルール」があったという。

IOCの意向を受けた組織委員会は、「イベントから72時間経過するまでの間に限り、非独占的に、ディレイで(すなわちライブではなく)放送し、あらゆるプラットホーム(インターネットを含む)経由で配信することができる」と定めていた。それに従って、72時間を経過した段階で記事を削除したというが、ネット上ではなぜ削除するのかという疑問の声が上がった。

IOCに放映権料を支払うテレビ局や、スポンサー料をIOCや日本の組織委員会に支払ったスポンサーには、「独占的な権利」を保証することで、かなりの金額のスポンサー料を徴収している。鈴木知事が苦言を呈したような大音量の宣伝車両が聖火リレーで走るのも、スポンサーに高い代金を支払ってもらった見返り、というわけだ。

おそらく、通常の環境で行われる聖火リレーだったら、多少、スポンサーの車両が大音量で走っていても、「盛り上げるための演出」で済んでいたに違いない。ところが、新型コロナの蔓延拡大が止まらず、世の中の自粛ムードが高まっている中で、スポンサー車両の「から騒ぎ」ばかりが目立つ演出に、結果的になってしまった、ということだろう。

オリンピック聖火リレー(2012年6月20日、メードストン・英国)
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「オリパラはできないのではないか」が国民の本音

それもこれも、多くの人たちが、今の段階になっても「オリンピックは本当にできるのか」という疑念を払拭できていないことが背景にある。これは裏を返せば、新型コロナ対策が十分にできておらず、新型コロナを封じ込めることに失敗しているからに他ならない。また、政府自身が、どういう状況に持っていくことでオリンピックを実施する、という明確な方針を打ち出せていないからだ。

自民党の二階俊博幹事長は4月15日のテレビ番組の収録で、「(感染が拡大した場合)その時の状況で判断せざるをえない。『これ以上、とても無理だ』ということであれば、すぱっとやめなければならない。感染症を蔓延させたら、何のためのオリンピックか分からない」と述べたとされ、「感染状況深刻なら中止も選択肢」という見出しで速報配信された。状況がどうなったら、中止をするのか、という明確な基準を示さずに、印象論として政治家が語ることで、国民の間には、「やはりオリパラはできないのではないか」という疑念が広がっている。