長年の“迷い”を一掃する発言だった

最近、若い日本人アスリートが世界で活躍するケースが目立っている。今回、米ジョージア州オーガスタの“マスターズ・トーナメント”で、松山英樹選手が日本人で初めて優勝したことは多くの感動を人々に与えた。特に注目すべきは、松山選手の「僕が勝ったことで、日本人も変わっていく」との発言だった。

米ジョージア州オーガスタで行われたマスターズゴルフトーナメント終了後、グリーンジャケットを受け取る松山英樹選手
写真=Sipa USA/時事通信フォト
米ジョージア州オーガスタで行われたマスターズゴルフトーナメント終了後、グリーンジャケットを受け取る松山英樹選手

1990年代初頭の大規模なバブル崩壊以降、われわれ日本人はややもすると自信を失い、「世界で通用しないのではないか」との思いもあった。しかし、松山選手の発言によって、日本の人々はそうした“迷い”を一掃することに努めるべきだ。

松山選手以外にも、テニスの大坂なおみ選手や、女子ゴルフの渋野日向子選手、米メジャーリーグの大谷翔平選手らの発言には、世界トップレベルに挑戦し、勝とうとする強い意志を感じる。そうした心理がわが国の社会と経済に与える影響は大きい。若手スポーツ選手のように世界に挑戦しようとする人が増えれば、わが国経済のダイナミズムは大きく高まるだろう。

足許、わが国では新型コロナウイルスの変異株の感染が拡大し、先行きに不安を感じる人は多い。その一方で、徐々に世界的な競争力を発揮する日本企業が増えている。工作機械はその代表例だ。それは世界がわが国のモノづくりの力を必要としていることを意味する。そうした企業が若い人や、既成概念にとらわれない人の発想を積極的に取り込み、さらなる成長を目指すことを期待したい。

松山選手が日本社会に与えた“自信”

マスターズ優勝後の記者会見で、グリーンジャケットを着た松山選手は次のように述べた。

「僕がここで勝ったことで、今テレビを見ている子供たちが5年後、10年後にこの舞台に立って、その子たちとトップで争うことができたらすごく幸せ」。その真意は、自分の姿を見た多くの人が、やればできると自信をもってくれるとうれしいということだ。

松山選手の発言には、スポーツだけでなく、あらゆる分野で成長を実現し、自らの目標を実現する(成功する)ための重要なポイントがある。それは、憧れの存在を目指して切磋琢磨し、挑戦を続けることが成長を支えるということだ。それを松山選手はマスターズ優勝という形でわが国に示し、その姿に多くの人が感動した。

愛媛県に生まれた松山選手は、1997年にマスターズ史上最年少優勝を果たしたタイガー・ウッズ選手の姿に感動し、自分もああなりたいと強く思った。それが松山選手の原体験だった。松山選手はタイガー・ウッズ選手のような存在になることを目指して明徳義塾中学・高等学校から東北福祉大学に進学し、ゴルフの腕を磨いた。